一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「面白かったですね」
菅原くんが予約してくれたお笑いのライブは想像以上に面白く、無心で笑った。
「あんなに笑ったのは久しぶりです」
隣を歩く耀に言うと彼は笑い過ぎて痛む頬の筋肉をさすりながら頷いた。
「僕も純粋に楽しめました」
周りの方も楽しんでいたから嫌な感情を受けることもなかったのだろう。
菅原くんの気遣いと計らいに恐れ入る。
ライブ会場近くの穴場の個室がある喫茶店まで予約してくれている抜かりなさだ。
「菅原さんにはお礼をしないといけませんね」
お店オススメのハンバーグランチを待つ間、耀が言った。
でも私は気にしなくて大丈夫だと答える。
「推進課は見返りを求めてはいけないんです」
今回は同じ部署の人間の世話になってしまっただけの話で、菅原くんがしたことは推進課が職員の方々のお世話をするのと大差ない。
気にする必要はないのだ。
「分かりました」
そう言う割に納得していない様子の耀に問いかける。
「なにか気になることがありますか?」
「あ、はい。あの、菅原さんのこともそうなんですが、さっきの話で…」
耀の言う『さっきの話』とは触れることで気持ちを切り替えるのはどうかと私が言ったことらしい。
俯いたまま小さな声で続けた。
「僕に触れたり、触れられたりして気持ち悪くないですか?」
「気持ち悪いって私が感じたと思いましたか?」
質問に質問で返す。
でも耀のようなエンパスの人間は相手の気持ちが分かるはず。
だから聞き返すのがいちばんの答えだと思った。
ジッと答えを待てば案の定、耀は首を左右に振った。