一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
そう言ってもらえて納得したわけではなかった。

だって今の私を見て選んだんじゃなかったから。

でも初めての彼氏、しかもイケメンだ。

気持ちに疑いを持ちながらも付き合うことにした。

ただやはり彼は昔の、テニスプレイヤーの私が好きなだけで今の私を見てはくれなかった。

少しずつ、違うと感じた彼は社内の女性へと目が向いた。

仕方ないと思った。

その程度。

やはり私に恋愛は向いてない。

そしてあれは恋ではなかった。

耀に気持ちを告白され、自分の気持ちに気づかされた今になってそれがよく分かる。

耀と3日続けてやり取りしていたメールと30分後に渡しに行くハーブの参考書を見ては口元が緩み、会いたいという気持ちが溢れてくる。

耀のことを考えるだけで胸が熱くなる。

いつの間に、と思わずにいられないけど、私は耀の「好き」に自身の「好き」の気持ちを引き出されたのだ。


「上手くいったみたいだね」


事あるごとに耀を思い出し、微笑む私を見て、向かいの席から菅原くんがニヤニヤ顔で話し掛けてきた。


「俺のおかげ、だよね?」

「あ、うん。そうだね。ありがとう。さすが推進課の職員だよ」


素直にお礼を伝えると菅原くんは少しだけ切なそうな顔で微笑んだ。

でもすぐにいつもの明るく軽い調子で椅子に仰け反り、言った。


「これで美羽ちゃんのご両親は安心するし、美羽ちゃんもパソコンに彼氏持ちチェック入れられるし、推進課の存続も問題ない。ウィンウィンウィンだね。お礼奮発してよー?」

「見返りを求めないのが推進課の規則」


先輩らしくピシャッと言い、タイミングよく届いた田辺さんのメールの内容を菅原くんに伝える。


「あ、田辺さん、来月の花火大会イベントに参加するって」

「へー。積極的だね」


失恋を忘れるには新しい恋。

ポジティブな田辺さんを私はとても好きだ。

だから今度こそ成就出来るように最善を尽くしてあげないと。

例年の計画に加えてさらに良い案がないかと考えながら研究棟を歩く。
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