一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「考え事してると足元危ないですよ」
聞き覚えのある声に振り返るとボサボサ頭、ヨレヨレ白衣の耀が立っていた。
「耀さん!」
小走りに駆け寄ると耀は照れたようにはにかみ、俯いた。
そして前に顕微鏡を見させてもらった部屋へと案内してくれた。
「今日もひとりで作業ですか?」
コーヒーを淹れてくれている耀の背中に問う。
するとコーヒーカップ片手にこちらを振り向いて言った。
「今日は吉木さんがいますよ」
「私は作業の手伝いは出来ませんよ」
差し出されたコーヒーを受け取り否定するも、机の上に置いていた参考書を耀は指差した。
「文献を持って来てもらえるだけで充分手伝って頂けてます。それに吉木さんに会えた。それだけでやる気が出るんです」
恥ずかしそうに俯くから言わなければいいのに、素直に口にする耀が可愛く見えて仕方ない。
ニヤける口元をコーヒーカップで隠し、視線を別なところに向ける。
「あ!顕微鏡。また少し見てチャレンジしてもいいですか?実験のお邪魔でなければ」
「いいですよ。今は空いてる時間なので。どうぞ」
耀の許可を得て顕微鏡の前に座る。
そしてレンズの位置を合わせて覗いてみる。
でもやっぱり片目で見るようには見えない。
「なんでこんなに難しいんだろう」
ボヤく私の背後に温もりが感じられた。
でも気付いた時には遅い。
振り向くことが出来ないほどの距離感で耀が私の顔を後ろから覗き込むようにして見ては接眼レンズの位置を目の位置に合わせ始めたのだ。
まるで後ろからすっぽり覆われるような体勢に鼓動が急加速する。
そうすれば当然耀は気がつく。