一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「私、美羽が羨ましかったの。優秀な美羽が妬ましかった。美羽といると劣等感に苛まれてた」
正直な里香の言葉が褒め言葉なのにグサリと胸に突き刺さる。
でも綺麗髪が机の上に付くのも気にせずガバッと頭を下げた里香を見て、気持ちは驚きに変わった。
「ごめん、美羽。自分の不甲斐なさを棚に上げて。本当にごめん」
「ちょっと謝らないでよ。里香が謝ることじゃない。私だって里香に嫉妬したことあるんだから」
後半、小さな声で言うと里香は頭を上げた。
「本当は言いたくなかったんだけど、私、里香と並んで歩くの嫌だったの。里香と並んで歩くとみんな里香の方見るんだもの。私はただの引き立て役でさ」
「なに言ってるの。美羽は普通に可愛いじゃない」
そんなこと言ってくれる人は数少ない。
両親と里香とそれと耀さんだ。
「あ、私、耀さんと付き合うことにしたんだ」
突然報告すると里香は手にしていた赤ワインのグラスを豪快に落とした。
プラスチックのグラスだったことと、残り少なかったから大ごとにならなかったものの、服に付いたら厄介だった。
おしぼりで机の上を拭き、再度赤ワインを注文する。
「おつまみはエイヒレ…じゃなくて、チーズにする?」
「え?あ、うん。そうね、チーズがいい」
放心状態だった里香はそう言うとフッと小さく笑った。
「美羽なら大丈夫ね」
「なにが?」
「美羽は私と正反対のタイプだもの。耀さんと上手くやっていけるわ」
正反対ということはないと思う。
どんなに裏表があっても人に優しく出来る人と出来ない人がいる。
里香は前者だ。
そのことは耀だって分かっている。
だからこそ里香を優にどうかと言ったのだし、具合が悪くなるのが分かっていながら食事会にも参加したのだ。
「いや、でも、それよりさ、驚いたんだけど、里香は野田専務のこと、本気なの?上手くいっても略奪、しかも不倫だよ?」
「分かってる。だから想うだけでいいの。野田専務の力になれればそれでいいの」
吹っ切れたような清々しい里香の表情を見て、なにかあったかと思った。