一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
翌日、出社早々に課長を含む全員を相談室に集めて、野田専務が反対している理由が分かったと話しを切り出すことにした。


「野田専務のご家庭にはお子さんがいらっしゃらない。これが理由なんだそうなんです」

「子供?」

眉間にしわを寄せ、首をかしげる蓮見さんに頷いて見せ、それから課長、菅原くんと見てから、話を続ける。


「野田専務のご家庭にはお子さんがいらっしゃらない。ですが、専務自身はお子さんがいないことになんの不満もないらしいんです」


子供がいない分、自由で、時間さえ合えば海外旅行に行けるし、互いの趣味の時間を持てると楽しそうに話しているのを里香は聞いたことがあると言っていた。


「じゃあ不仲なの?それが社内恋愛の結末だからやめた方がいいって話?」


蓮見さんの疑問を否定する。


「夫婦仲はとても良いそうです」

「夫婦円満で自由で楽しい。それは子供がいないおかげ。うちと同じよね?」


蓮見さんは課長の方を見た。

それに対して課長は小さく頷いてから、私の方を見て答えを催促してきた。


「いったいなにが反対する理由になるんですか?」

「奥様は子供が欲しかったんです」


今は芸能人でも不妊治療に関して公にしたり、会社によっては治療に融通を利かせてくれるところもあるが、不妊治療というものに対しての理解が乏しかった同時、急に休んだり、薬の影響で気分に浮き沈みのあった奥様を同僚は煙たい存在として見ていた。

それでも子供が欲しいと願った奥様は仕事の合間を縫って治療を続けた。

でも仕事との両立はかなり厳しく、同僚の険悪な視線に耐え切れず治療を断念。

自然に任せたが子作り、子作りと躍起になる奥様との間に考えの差が生じ、それでも協力していた野田専務はいつのまにか疲れ切ってしまった。

結果、夫婦仲は冷めた。

それでは当然子供は出来るはずもなく。

結局、時間だけが過ぎ、体は子供を授かれる状態にはならなくなった。

ただその間、社内恋愛推進課が設立され、社内では結婚が相次いだ。

それと同じくらい、出産も続いた。

子供が欲しかった奥様にとってお腹の大きい妊婦を目にすることも、育休を取る女性も、出産祝いを渡すことも、育休から明けて来た女性を迎えることも、子供が熱を出したからと席を外す部下のフォローに回ることも、辛かったのだ。
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