一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「その気持ち、なんとなく分かるわ」
蓮見さんがポツリと言った。
全員の視線が蓮見さんに集まる。
もちろん課長も蓮見さんを見ていた。
それに気付き、蓮見さんは慌てて手を振った。
「ごめん。あなたを責めてるとかじゃないの。私たちはお互いに子供は要らないって言って結婚したんだから」
そうだったのか、と課長夫婦の内情に心の中で納得する。
「でも自分にないものはどこか羨ましいのよね」
蓮見さんの言葉と昨日里香と話していたことが重なった。
里香と私は互いに自分にないものを羨ましいと思い、妬んでいたから。
「推進課に反対するのも無理はない、か」
課長は深くソファーにもたれると、静かにそう言った。
場が静まり返る。
おそらくみんなどうしていいか分からないのだ。
私もこの話を聞いて「それでも推進課は必要です!」とは言えないと思った。
野田専務の奥様と同じように知らず知らずのうちに傷付いている人はいるだろうから。
幸せばかりじゃないのだと知らされたのだ。
「せっかく耀さんの相手、見つかったのに」
静寂を切り裂き、爆弾発言をしたのは菅原くんだ。
「え?!見つかったの?!」
蓮見さんが驚きの声を上げ、課長がソファーからガバッと身を起こした。
「誰?」
菅原くんに詰め寄る蓮見さんの視線から逃げるように菅原くんは私を見た。
いや、私を見た、それこそが答えなのだけど、蓮見さんは私を問い詰める。
「美羽ちゃん、誰なの?佐々木さん?」
「里香は優さんと上手くいきそうです」
そう言うと菅原くんが反応した。
「じゃあ佐々木さんと美羽ちゃん、将来的に親戚になるんだね」
「……え?!」
未だかつてあれほどまでに大きな声を出した課長の声を聞いたことはない。
それは妻である蓮見さんも言っていた。