一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
そう言って耀を見れば、彼は照れたように俯き、小さく頷いた。


「それはどういう方法なの?」


社長の空いたお猪口に日本酒を注ぐ奥様がそこを突っ込んできた。


「それは…」


言い淀む私たちに奥様は身を乗り出し、同じことを聞く。

なぜそこまで…

そう思ってハッとした。

奥様は自身の気持ちが耀に伝わらないようにと別宅まで建てたのだ。

負の気持ちを切り替え、耀の体に支障が出ない方法があるなら知りたいと思うのは親として当然だろう。


「触れることです」

「ちょっと、吉木さん?!」


顔を真っ赤にして慌てる耀さんを見て、親に言うことでもないかと思った。

でも鈍感な私でも分かる。

そのくらい奥様は答えを求めてる。


「手を握る、頭を撫でる、そんな些細なことで十分です。憎しみや怒りのような負の感情は愛おしい人の肌に触れて増強することはまずありません」


きちんと言い切るも、奥様は首を傾げた。


「体質が体調不良の原因だって分かる前まではよく耀を抱きしめていたわ。『ごめんね、こんな体に産んでしまってごめんね』って言いながら。耀の体質を知って、あれがいけなかったって思って離れたんだけど」

「それは違うよ、母さん」


耀は母親の言葉を瞬時に否定した。


「母さんに抱き締められるとき、たしかに悲しい感情があったけど、同時に愛情もあった。吉木さんと出会い、この方法に気付いてから思い出した。母さんに抱き締めてもらえた時はさほど具合悪くなってなかった、ってことに」

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