一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
耀は定期的に病院に通っていた。

病院は楽しい場所ではない。

大勢が不安や苦しみを抱えている場所。

その気持ちに多く触れてしまい、耀は具合が悪くなっていたのだ。

付き添っていた母親に原因があったと思われがちだったが、違った。


「それならそうと言ってくれれば良かったのに」


奥様の切迫した声が響く。


「そしたら別棟になんて…ひとりになんてしなかったのに」

「いつまでも耀は子供じゃない。抱き締めてやる訳にはいなかないだろ。だから間違ってはなかったよ。な、耀?」


奥様を慰めるように社長が言葉を繋ぎ、耀を見た。

それに耀は大きく頷いた。


「僕もそれなりに年頃だったから。いつまでも母さんに抱っこされるのは嫌だった。それにひとりになって、どれだけ母さんが愛情を注いでくれていたかよく分かったよ。だから僕は普段も、そして今もこうして具合が悪くならずに母さんと接していられる。母さんの気持ちは悲しみと後悔の念でいっぱいなのに」


目に涙を浮かべていた奥様は耀の言葉を聞いて大粒の涙を流した。

それを社長がポケットからハンカチを出し、拭うよう促し、そして私を見て言った。


「今はきっと吉木さんの影響が大きいんだろうな。どうか耀にたくさんの愛情を末永く注いでやってください」
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