一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「ありがとうございます」
良いことはトントン拍子で進む。
優子さんに紹介して貰った心理士の先生は講師としても活躍されている方で、企業内カウンセラー育成スクールで直接指導を受けられることになった。
私と同じようにカウンセラーになりたいと希望した課長と蓮見さんの願いも叶えられた。
ただそれは半年先の話で、それまでは通常通り、推進課は稼働する。
だから田辺さんが幸せになるお世話をさせて貰った夏祭りも、里香と優が付き合うようになったことで起きたトラブルも、私たちが全力で対処した。
「それでも菅原くんがいなくなった穴は大きいよ」
カウンセラーの勉強が始まるひと月前に私と耀は菅原くんの新しい職場近くの喫茶店で彼の前に座っている。
「大きい、って言う割にこんなの持って来る余裕はあるんだね」
菅原くんが嫌味のように言い、ヒラヒラと私たちの前に揺らすのは二枚の招待状。
「まさか耀さん、優さん、同時に結婚式挙げるとはね」
「驚いた?」
私が勉強で忙しくなり、ふたりの関係が疎かになってはいけないから、と社長夫婦にせがまれて形だけでも先に結婚することになった。
そこに優が便乗。
同時に式を挙げることで招待客を二度呼ぶ手間を省いた。
「本当のところは里香に逃げられないようにするためだけどね」
里香は優にベタ惚れなのに、あの胸のうちに想いをしまい込んでしまう癖が抜けず、優をヤキモキさせているのだ。
でも幸せ気分でいっぱいの里香には負の感情が少ない。
恋愛に対する不安はあるらしいけど、そこは優が積極的に想いをぶつけて無くしている。
だから今では耀も里香と普通に接することが出来てるのだ。
「それは良かったっすね!」
菅原くんに言われて耀は小さく頷いた。
でもパッと顔を上げて、私の方を見た。
「一点。間違いがありましたよ。僕たちの結婚は吉木さんが講師の先生がカッコいいとか言ってしまったから、両親が焦ったんです」
カッコいいと思った人のことをカッコいいと言っていけないことはない。
それにカッコいいって言うのは私の中では普通のこと。
そこに恋愛感情がないことくらい耀だって分かってるはずなのに。