一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「彼は研究だけに集中させてくれ、と会長に直訴したほど人付き合いの苦手な男性だ。表舞台には決して出て来ない」
「え?」
研究者と言えども、新商品の説明に営業先に出向いたり、開発部と話し合いを持つことはある。
でも社長の息子はその仕事をしないと言う。
実力があるからにしても、それを許される人物とはいったい、どんな人なのだろう。
好奇心と不安が入り混じる私の前で野田専務は椅子に踏ん反り返り、ニヤリと笑った。
「いいでしょう。彼に恋愛をさせることができたのなら、推進課の存在意味を認めます。ここは家族経営ですからね。子孫の繁栄は必須でしょう」
嫌味のように皮肉った野田専務の怪しい微笑みに背筋がゾワっとした。
「ただし、期限は3ヶ月。それとここでの話は他言しないように」
ピシャリと言い切った野田専務の言葉に息を飲む。
余計な混乱を生まないためか、該当人物に無用な注目が集まらないようにするためか、部署存続のための小芝居を打たせないようにするためか。
そこは分からない。
でも私たちがやることはひとつ。
「わかりました。彼に恋愛をさせてみせましょう」
課長がはっきり答えると社長は笑みを浮かべて言った。
「よろしくお願いしますね。ですが覚悟してください。あの子は推進課に近いが恋愛から遠い人物です。だからこそ難しいと思いますよ」