一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
ミッション1 中村耀をイベントに参加させよ
「あいつは恋愛に興味ないよ」
社長の息子である中村耀の情報を得るため推進課専用の相談室に双子の兄、中村優を呼び出した。
専用部屋と言っても広さは六畳程度で、ローテーブルを挟んで革張りのソファーとエスプレッソマシーンが置かれているだけの簡素な部屋である。
それでも話をするには十分だ。
「耀さんのことをもう少し詳しく教えてください」
私たちが調べられた情報は、年齢が28歳ということと、T大大学院を卒業後、そこで得た知識と技術を活かし、今年の春から当社の研究室に籍を置いているということ、食品生産に役立つ技術開発(バイオテクノロジー)を主な仕事としており、研究が全て、研究が生き甲斐という考えの持ち主だということだけ。
「どういった方なんですか?性格とか恋愛とか」
エスプレッソマシーンで淹れたコーヒーを優に手渡し、話を催促する。
「アイツは人と関わること自体、苦手なんだよ。だから自分が恋愛するなんて考えてもいない」
経営戦略課所属の優はそこでひと口コーヒーを飲んでから長い足組み替え、私と課長を交互に見やった。
「でもどうして耀のことなんて聞きたいの?」
会議室での内容は他言出来ない。
だから適当に「耀さんに気がある人がおりますので…」と課長が答えてみたものの、優は眉間に皺を寄せ、疑いの目を向けてきた。
「あんな暗くてダサくて変なヤツを気に掛ける女、本当にいるんですか?」
本社の社屋とは離れた研究所に引きこもっている耀の姿はそこで働く人しか見たことがない。
兄弟だからさぞかし兄に似たイケメンだろうと噂されているのだが、優の反応から察するに違うようだ。