一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
『耀が参加するって言ったら俺も参加します』
「…って、あれ、程のいい口実ですよね」
優の姿が室内から消えたのを機に、カップを片付けながら課長に言う。
「目が笑っていませんでしたよ」
課長は苦笑いを浮かべてから答えた。
「でも優さんと耀さんは将来的に兄弟で重役の席を争うことになるのでしょうから、兄としては少なからず弟の存在が気になるのでしょう」
海外への進出を計画し、動き出している当社において、海外で経営のノウハウを学んできた優の存在は大きい。
このまま海外事業が成功すれば優が跡を継ぐことに不満を持つ社員はいないだろう。
ただ、高度な専門知識と技術を有している耀もまた跡継ぎとして申し分ない。
表舞台に立たないことを許されているということがどうしても解せなくて研究室の知り合いに聞いたところ、耀が学生の頃に発表した研究内容は海外でも注目される程、凄いものだと教えてくれた。
『人間関係は全然上手くないんだけど、天才としては普通って感じで同僚たちは気にしてないよ』
そう言っていたけど、人の上に立つ者として、人間関係が上手く築けないことは致命的だと思う。
「社内恋愛をきっかけに変わる可能性はありますよ。人と関わらない限り、恋愛は成立しませんからね」
「そうですね」
おそらく社長はそこまで見込んで提案したのだろう。
「ただ耀さんの情報、あまり引き出せませんでしたね。社長が言っていた『推進課に近い』っていうのもよく分からないですし」
「たしかにそこは分かりませんね。ですが、優さんと話が出来たのは無駄ではありませんでしたよ」
課長は意味ありげに微笑むと席を立ち、内線で耀を呼び出した。