一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました

30分後。

部屋に現れたのは優とは似ても似つかない男性。


「忙しい中、お呼びだてしてすみません」


課長の物腰柔らかな言い方に俯いていた耀の顔が少しだけ上がった。

でも長い前髪と眼鏡のせいで瞳が見えにくく、表情が読み取れない。

課長に促され、私たちの向かいに腰掛けた耀だけど、その顔は下を向いたまま。

優が『暗い』と言った意味が分かる。

身長は兄と同じくらいだけど、身体は細く、眼鏡を直す時に出した指もまた女性のように細い。

髪は寝癖が付いたままだし、白衣の下のポロシャツは襟の部分がヨレヨレ。

仕立ての良いスーツを着て、堂々としていた兄とは正反対だ。

清潔感に欠ける見た目は恋愛から遠い。

どうしたものかと課長の方を窺い見ると課長は柔らかい視線を耀に向け、そして静かに彼の名を呼んだ。


「中村さん…では呼びにくいので耀さん、とお呼びしてもよろしいでしょうか」


家族経営のため、中村性は多い。

暗黙の了解でファーストネームが呼ばれるのだけど、律儀な課長は耀に了解を得た。

それに対して耀が小さく頷いたのをきっかけに課長は本題に入っていく。


「推進課のことはご存知ですか?」


また小さく頷いた耀にそれなら話は早いと課長は話を続けた。


「お兄様が今度行われるイベントに耀さんが参加したら来てくれると言っているのですよ」


『兄』という単語に初めて顔を上げた。

その瞬間揺れた前髪と眼鏡の下からアーモンド型の瞳が現れた。


「わ…」


なんて綺麗な瞳なんだろう。

色気の漂う男性的な目付きの優とは違う。

でも息を呑むほど美しかった。


「なんで…」


恵まれた容姿を隠すのだろう。
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