一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「私たちは耀さんにも社内恋愛をお勧め出来たら、と考えています。耀さんは今、お付き合いしている方はいますか?」
ストレートな課長の言葉に、俯いたままの耀は少しの間のあと、首を一度横に振った。
「ではお兄様と一緒に社内でお相手を探してみませんか」
先ほどよりも長い間が空き、空調の音だけが室内に響いている。
身動きさえしない耀に堪り兼ねて、課長に変わり、もう一度伝えようと身を乗り出そうとした時、「僕は兄とは違います」という小さくもはっきりとした声が返ってきた。
「僕は今のままで十分です。会長や社長のように社内で結婚相手を探す気はありません。結婚にも出世にも興味はありません」
「社内恋愛に反対なんですか?」
課長の続け様の質問に耀は首を横に振った。
「祖父の考えは一理あるので反対ではありません。ただ自分が結婚したいと思わない。それだけなんです」
「それは時期的な問題ですか?」
耀はまた首を横に振った。
「結婚が心を満たすものだとするなら、僕には仕事がそれに相当するだけの話しです」
幸せの形は人それぞれだけど、恋愛や結婚に幸せを求める人は多いと思っていた。
でも耀は好きな仕事で満たされている以上、恋愛は必要ないと言い切る。
はてさて、これはどうしたものだろう。
課長とふたり閉口して考えあぐねているところに耀が口を開いた。