一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
でも心配されるのも無理はない。

私は菅原くんほど頭の回転が速い訳じゃないし、恋愛経験が少ないから、社員の方の相談に、アドバイスをする立場にありながら的確なアドバイスをすることが出来ず、後輩である菅原くんを頼ってしまうことが何度かあったから。


『俺の経験が役に立つ部署があると思わなかったなー』


高校生の頃から恋人が途切れたことのない菅原くんにそんな風に言われたことがある。

ただ、その時の菅原くんの表情は、表面上こそ笑っていたけど、目の奥は暗かった。

それもそのはず。

菅原くんは食品メーカーエンジニアとして就職してきたから推進課に配属されるなんて思いもよらなかったのだ。

大学で化学工学を学んだ彼は、モノを作るにあたり必要な製造機器やソフトウェアを活用する技術と知識を持っている。

野田専務が言っていたように適材適所という意味では菅原くんの本当の所属部署は推進課ではない。

それなのになぜ菅原くんが推進課に配属されたのかと言うと、優秀過ぎたから。

これは人事部の知り合いから聞いた話だけど、菅原くんは面接の時、自身の実力を見てもらおうと既存のものを根底から覆す案を提出したらしい。

それは今までにない画期的なものでエンジニアたちの度肝を抜いた。

その上、入社試験は満点。

優秀過ぎると言わしめるには十分だった。

ただそれが仇になった。


『優秀な人材は不満を感じやすいんだよな』


人事部長の言葉である。


『チーム内で問題を起こす可能性がある。経験の浅い上司を見下しかねない。それに他に良い仕事が見つかれば、転職していってしまう。でも、優秀な人材をみすみす他社に渡したくはない』


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