一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
『耀が参加するなんて言うとは思わなかったんだよ』
やはり断る口実だったらしい。
兄のためを想ってイベントに参加することを決めた耀が気の毒に思えた。
『でも知られるのは時間の問題ですよ。中村性を名乗っているんですから』
自己紹介をいちいちするのは時間の無駄なので各自で記入した名札を胸元に付けている。
それは耀にも付けてもらっていて、そこには"研究室所属中村耀"と書かれているはず。
『それなら苗字を『鈴木』にするよう伝えてあるから大丈夫だ』
そこまでして兄弟であることを隠したいなんて。
『どうしてそこまで…』
少し踏み込んで聞けば『耀とは関わらないに越したことないんだ』とだけ言い、会場へと戻って行ってしまった。
会場内では各グループが火おこしにチャレンジしはじめている。
それを遠目から見れば、優は露骨に耀を避けていた。
そして優の周りには女性や男性たちが集まり、取り巻きが出来ている。
その分、孤立している耀が余計に目立ち、まるでその場にいないかのような扱いに胸が痛んだ。
だからこそ推進課のメンバーが気に掛け、耀に輪に入るよう促すのだけど、耀は頑なに輪に入ろうとしない。
「気にしないでください。余計なお世話は無用だと言いましたよね?」
有無を言わさぬ口調に、それ以上近寄ることは出来なかった。