一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「こんな時に何出してんの?」
「キモいんだけど」
女性たちからのあからさまな嫌悪の声に耀の手が止まり、俯いてしまった。
「これはさすがに救いの手を差し伸べるべきですね」
課長がそう判断し、耀に近付いて行く。
その後ろ姿を見つつ、私は兄である優を探すことにした。
でもその姿が見えない。
「優さんは?」
隣に立つ菅原くんに聞いてみた。
「ん?あぁ。優さんならなんか電話が掛かってきたとか言ってだいぶ前からいないよ」
だいぶ前って具体的にいつから、と聞こうとした時、耀に近寄るひとりの姿が目に入り、会話が途切れた。
「その紙をどうするの?」
里香だ。
その優しい声掛けに耀の顔が少しだけ上がった。
でも何も答えない耀に里香はもう一歩近付き、手から紙を取った。
「あぁ!広告ね!これに先に火をつければいいのね?」
『広告』と里香が大きな声で言ったことで変な誤解は解けたけど、誰もその場から動かない。
見兼ねた菅原くんが様子を見ていた課長の横をすり抜け、耀と里香の元に素早く掛け寄った。
「用意がいいっすね。もしかしてバーベキューの達人とか?」
言い方は茶化しているように聞こえるけど、明るく爽やかな表情は決して茶化しているものではない。
「全身白の服も、それって虫除けのためっすよね?こんな派手な格好してる俺が言うのもなんですけど」
「ははは。そりゃそーだ」