一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました

「また笑いましたね。うん。笑った顔の方が素敵ですよ」


里香はそう言うと、耀の帽子のツバを少し持ち上げた。


「わっ!」


慌てて里香の手を払い、目深に帽子を被り直した耀だけど、赤くなった耳は隠せていない。


「あ…ご、ごめんなさい」


すぐに頭を下げて謝る里香に対して、耀は里香に背を向け、手元にあったビールをグイッと一気に飲んだ。

でもこの反応はもしかして…。

耀の照れた姿に推進課の未来が拓けた気がして思わず口元が緩んだ。

ただまた里香に睨まれてしまったので、慌てて口を噤み、口を一文字に結ぶ。

すると、突然、思い立ったように耀が顔を上げた。


「中村優さんはどうですか?」

「え?」


里香と言葉が重なった。

でもそんなことを気にしない耀は体を反転させ、私の方を見て続けた。


「佐々木さんは吉木さんの言う通り素敵な方なんだと思います。ですのでお相手に中村優さんはどうですか?」

「あー…」


たしかに、耀には『優をイベントに参加させるために来て欲しい』と誘ったけど、本来の目的は耀自身に恋人を見つけることだ。

でもそれは言えなくて…。

返す言葉が見つからずにいると里香が「あのひとは私でなくても大丈夫そうですよ」と優のいる方を見て言った。

そこには耀も「あぁ…」と納得してしまうだけのハーレムが出来ている。

そして里香の元へも何人かの男性が近付いて来た。


「ちょっとお話しよろしいですか」


ここで里香か耀が「まだ話してるので」と断ってくれればよかったのだけど、耀はもちろんすぐに席を譲り、里香は里香で他部署の人と知り合って損はないと笑顔で応えた。
 
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