一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
社屋から研究棟へは直線距離にしておよそ7キロ。
30分毎に動いているバスに乗り込み、やって来たのはいいけど、研究棟へはほとんど足を運んだことがない。
「ここはどこ…?」
完全に迷ってしまった。
無機質な長い廊下の真ん中で立ち止まる。
するとタイミングよく私の名を誰かが呼んだ。
「吉木さん?ここでなにをしてるの?」
振り向いた先にいたのは研究室所属の有川靖さん40歳。
年齢の割に若く見え、柔らかな笑顔がステキな有川さんは『白衣の王子様』なんて呼ばれている。
当然私のイケメンレーダーも有川さんを一目見た時に反応した。
ただ、この人こそ里香の先輩の元彼であり、里香を好きになってしまった人で、私が有川さんと関わりを持ったキッカケはなかなか複雑なものだった。
それでも悪い人ではない。
むしろとても優しい方で、里香に嫌な思いをさせてしまったことを後悔して、しばらく里香を守って欲しいと若造の私に頭を下げた。
その優しさに触れて、私は有川さんにも幸せになって欲しいと願うようになり、イベントへの参加を促し、見事、社内で伴侶を見つけることに成功した。
それから懇意にさせてもらっており、ベールに包まれがちな研究室の方の情報は有川さんに聞くようにしている。
社長から耀に恋人を見つけろと言われた翌日も、少しでも情報が欲しいと有川さんに研究室での耀の様子を尋ねた。
『彼は推進課に縁遠い気がしたけど、いったいなんで彼のことを知りたいの?』
そう聞かれたけど理由は話さず、教えて欲しいとだけ伝えた。
気になったと思う。
でも有川さんはそれ以上詮索せず、教えてくれた。