一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
今も耀の部屋を探している、と有川さんに言えば意外そうな顔をしたけど、黙って案内してくれた。


「今日はこの部屋でひとり研究してるはずだよ」


中には耀以外に誰もいないと暗に言った有川さんは扉を開けて中へ入るよう促してくれた。


「あの、白衣とか着てないですけど大丈夫ですか?」


研究室のイメージにクリーンなイメージがある私はそのまま入ることを躊躇した。

でも問題はないらしい。


「無菌室じゃないから大丈夫」

「なるほど。そういうことならこのまま入ります。ありがとうございます。助かりました」


有川さんにお礼を伝え、中へと進む。

すると予想外にもそこは長机と椅子の置かれた普通の部屋だった。


「失礼します」


入り口付近に耀の姿は見えない。

奥へと足を向けるとガチャン、ガチャンという機械音が耳に届いてきた。

仕切られた壁の奥を覗く。

そこにはこれぞ研究室という感じのたくさんの測定機器があった。

でもそこにも耀はいない。

さらに奥へと進むと今度は理科室を思い出させる黒の横長のテーブルがあった。

その上にはビーカーやスポイトなどといった実験器具が並んでいる。


「懐かしいなぁ」


理科は苦手だったけど実験は楽しかった。

ビーカーを手に取り眺め、束の間郷愁に浸る。

それから周りに目を向けると部屋の端に置かれた顕微鏡の前に耀は座っていた。
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