一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
言われた通りに動かしてみるけど二重に見えたまま。


「ダメだ。目がおかしくなりそうです」


しばらく格闘してみても変わらない。

顕微鏡から顔を外し、目頭を押さえると耀は声を出して笑った。


「初めて見た時は僕もそうでした」

「そう、でしたか」


いや、それより耀の笑顔の方が気になる。

ジッと見ていたら耀は気まずいのかオロオロし始めた。


「僕、なにか失礼なこと言いましたか?」

「いえ。ただ耀さんって普通によく笑うんだな、と思っただけです」

「え?」


無意識だったらしく、意外だと言わんばかりの素っ頓狂な声をあげた。

でもバーベキューの時にも笑っていたし、今もこんな些細なことで笑う。

それに人付き合いが苦手だと言う割に会話はきちんと成り立つ。

見た目こそ奇人っぽいし、人と関わろうとせず必要以上に距離を取り、俯きがちだけど、本当の耀は全然違う気がした。

もう少し耀のことを知りたい。

ふとそんなことを思い、長い前髪の隙間からわずかに見える瞳を真っ直ぐ見つめ、耀の本質を探る。

目を逸らされることを覚悟して。

ただ意外なことに耀は視線を外すことなく私を見た。

視線が交じり合う。

ほんの数秒。

たった数秒。

それなのに鼓動が急加速し、血圧が一気に上がり、全身が脈打ち始めた。

その興奮状態の感覚に頭が混乱する。

思わず目を逸らすと耀も目を逸らした。



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