一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
「今、忙しい?少し話しがしたいんだけど」
優の直球の誘いに里香は表情一つ変えない。
対照的に、隣では後輩の安田さんが優を見て頬を染め、興奮気味に里香と優を交互に見ている。
「あー…あれはちょっとヤバイね」
背後で菅原くんが呟いた。
「なんで?」
「あの子、同期なんだけど、噂流すのが大好きなんだ。ゴシップとか大好物」
なんでそんな子が受付に…と思ったけど、綺麗な黒髪のショートボブに大きな瞳、黒縁メガネは知的で、清潔感があり好印象だ。
推進課に足を運んだことはなさそうだし、普段、受付は里香にしか目が入らなかったから気にしてなかったけど、彼女もまた美人の部類に入るだろう。
ただ、ゴシップ好きはいただけない。
今も里香と優の会話をひと言も逃さまいと耳をそばだてている。
もっとも、そこは私たちも同じだけど、私たちは優が里香に声を掛けたことを他言しない。
特に優は後継者候補。
その嫁の座を狙っている女性は多い。
「だから言ったのに」
また里香が敵視されてしまう可能性が出てきてしまったじゃないか。
配慮が足りない優に嫌気がさす。
それは里香も同じだったようで、玄関ホールに硬い声が響いた。
「仕事の話でしたらここでお願いします」
それ以外なら聞きません、と言わんばかりの里香の態度に優は笑い、頷いた。
「ここで話す内容じゃないんだ。だから少し席を外してくれないか。忙しい時間じゃないだろうし。いいよね?」
色気漂う優の瞳に同意を求められて安田さんは陥落。
里香の背中を押した。
でも里香はそれに抵抗する。
「仕事以外の話なら申し訳ありませんが、席を外せません」
「ふたりきりが嫌なら彼らを交える。それならいい?」
優はそう言うと観葉植物に隠れている私と菅原くんの方を後ろ手に指した。