一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
隣に座る菅原くんはどうしていいのか困っているし、斜め前に座る耀は完全に私と里香から目を逸らし、いつも以上に俯いている。
これではダメだ。
せっかく耀も里香も時間を作ってくれたのに。
里香との溝が気にならない訳じゃないけど、今は、今だけは楽しい時間にしないと。
「ふぅっ」
息を吐き出し、気持ちを切り替え、メニュー表を手に取り、努めて明るい声を出す。
「今日のメニューはなにかなー?里香と菅原くんは好き嫌いないもんね。耀さんはどうですか?好き嫌い、ありますか?」
耀に話題を振ると、彼はゆっくりと顔を上げた。
その顔色は悪く、体は小刻みに震えている。
「耀さん、大丈夫ですか?寒いですか?」
日中の気温が高かったのと、お酒が入ることを加味して店内は冷房が効いている。
私にはさほど感じないことでも、冷房が苦手な人には辛いかもしれない。
そう思って聞くも耀は首を左右に振った。
「冷房の温度なら変えられますからお申し付けください」
タイミングよく飲み物を運んできてくれた店員さんが話を聞きつけ、耀を見兼ねて言った。
それでも耀は同じように首を左右に振った。
「大丈夫です。寒くはありませんから」
消え入るような弱々しい声に店員さんも困り顔だ。
でも大丈夫と言われている以上、強くは言えない。
飲み物だけ置いて去って行った。
「具合悪いようなら無理しないでくださいね」
里香がワイングラスを持ちながら耀に言った。
「いえ、今日はきちんとお礼に伺ったのでこれくらい大丈夫です。すみません」
耀がカルピスサワーに手を伸ばし、グラスを握り締めるように持った。
その硬い動きと硬い表情を見て、心配にならない人はいないだろう。
それでも耀が大丈夫だと言うものをそれ以上、心配する訳にもいかず。
「じゃあ無理のない範囲で。始めましょうか」
ビールを手に取り、明るく声を掛ける。