一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました

なぜ今日の里香はこんなに突っかかる言い方をするのかと勘繰らずにいられない。

そのくらい、冷たい言い方だった。

さすがの菅原くんも、耀と同じように食事の手が止まっている。


「ほらほら、料理が冷めちゃうよ。耀さんも、温かいうちに食べましょう。里香も。ワインばっかり飲んでないで、料理もちゃんと食べてね。あ!店員さん、取り分け皿、あと四枚頂けますか?」


次のグラタンを運んで来てくれた店員さんを使い、話題を逸らした。

ついでにグラタンを4人分取り分けることにしたんだけど…


「あれ?なんか変だな。あれ?こう?」

「美羽ちゃん、なにしてんの」


菅原くんが不器用な私の手元を見て、顔を歪ませている。


「グラタン、ぐちゃぐちゃなんだけど」

「だってこれ、思っている以上に柔らかいんだよ?取り分けるの難しいよ。でもお腹に入っちゃえば同じだよね。適当に分けるから菅原くん、お皿貸して」

「え?!イヤだよ。そんなぐちゃぐちゃになったのなんて。なんか見た目、ゲ…」


なにを言おうとしたのか分かったので、慌てて菅原くんの口元を押さえる。


「ムググ…く、苦し…」


身悶える菅原くんから手を離すと、あからさまに苦しさをアピールした。


「美羽ちゃん手が大きいこと、自覚してよ。鼻まで覆ったら息する隙間がないっつーの。しかも力強過ぎ。女性とは思えない怪力…って、痛っ!」


あまりにひどい物言いに、菅原くんの頬を抓ると今度はまた大げさに痛がる。


「女性からワーキャー言われる俺の綺麗な顔が明日腫れてたら美羽ちゃんの責任だからな!責任取ってよ!」

「なに言ってんの。たとえ腫れたとしてもそれは自業自得です」

「元はと言えば美羽ちゃんが悪いのに。こんなグラタンぐちゃぐちゃにしてさ。ね?耀さんもそう思いませんか?」


菅原くんに突然、話を振られた耀は驚いたように目を瞬かせた。

でもその直後、フッと笑った。


「仲がいいんですね」

「別に」


菅原くんと揃って言うと耀は切なく微笑んだ。


「羨ましいです。僕にはそうやって言い合える人はいないので」

「美羽ちゃんで良ければ言い合いの相手になりますよ?」


私の肩に置かれた菅原くんの手を乱暴に振り払う。

でも、菅原くんの言い分は否定はしない。


「私で良ければいつでも話し相手になりますよ」


耀に微笑んで見せる。

すると耀も柔らかく微笑んでくれた。

その笑顔に図らずともドキッとしてしまった。

でもここで視線を露骨に逸らしたら耀は気にするだろう。

だから視線を合わせ続けているのだけど、これはこれで鼓動が加速するし、気まずい。

だから失礼にならない程度に自然体を心掛けて目の前のグラタンに向かう。


「あ、だから、美羽ちゃん、それ以上グラタンに触んないで。余計にゲ…!」

「それ以上言わないで!」


また同じように菅原くんの口元を押さえると、見かねた里香が私の手元からスプーンを取った。


「私がやるわ」


そう言うとぐちゃぐちゃにした部分を含めて、綺麗に4等分した。


「すごいね、里香。器用だよね」

「そうね、器用さと料理の腕前だけは美羽に負けないかもね」

意地悪くニヤリと笑う里香はいつもの里香だ。

私がぐちゃぐちゃにした部分をさり気なく自分のお皿に盛る優しさも。


「ありがとう。あ、ねぇ、里香って学生の頃、学級委員だった?」


バーベキューの時、答えを聞けなかった問いを聞いてみた。

でもここで聞くべきではなかったらしい。


「なんで?私みたいのがなれる訳ないじゃない」


バーベキューの時の正義感ある行動といい、てっきり学級委員だったと思ったから聞いたのに、また里香の機嫌が悪くなってしまった。

そこを察した菅原くんがすかさず話を振った。


「美羽ちゃんこそ学級委員じゃないの?人気ありそうだし、慕われそうだもんね」

「それこそないよ。私は学級委員タイプじゃないし、私は生き物係だったの」

「美羽ちゃんが?なんで?体育委員とかの方がお似合いじゃない?」
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