カフェ・ブレイク
アルマニャックのせいか、食欲はなかった。
まっすぐマンションに帰る。

「え?ココ?」
なっちゃんが驚いて見上げた先には、新築のタワーマンション。

「ああ、去年こっちに引っ越した。うちの両親が最上階を占拠してる。」
そう言いながら、一般住居者用じゃなくて、管理用のエレベーターへ案内する。

「このエレベーターを使うのは管理会社と両親と俺だけで、速いから。なっちゃんもこっちを使うといい。」
何気なくそう言うと、なっちゃんの表情が固まった。

「……絶対無理です。ご両親に逢ってしまったら、何て言えばいいんですか?」
「別に。俺の部屋に行くって言えば?ホントのことだし。」

なっちゃんの躊躇はわかったけれど……今さらというか。
学生時代から女の出入は多かったし、このマンションに引っ越してからも何人かと遭遇してる。

「気にしなくていいよ。」
サラリとそう言ったけれど、なっちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

そう言えば、姑と折合が悪くて離婚したんだっけ?
イロイロ身構えること、あるのかな。


「やっぱり嫁と姑ってうまくいかないもんなの?」
部屋の中を一通り見て回って、興奮してはしゃいで、ようやく落ち着いたなっちゃんに、改めてそう聞いてみた。

「どうなんでしょう?私の場合は、そもそも、姑は別の女性と息子を結婚させたかったらしいのでハナっから受け入れてもらえてなかったみたいです。」
意外と淡々となっちゃんはそう言った。

「へえ?じゃあ、元旦那は、親の反対を押し切って、なっちゃんを選んだんだ?それでますます姑にイジメられたのかな?」
「今から思えば、元夫なりに頑張ったのかもしれませんね。」
なっちゃんの声は冷淡だった。

「……でももう、子離れできてない親も、親離れできてない子も、気持ち悪くて無理。」
ぶるぶると首を振りながらそう言ったなっちゃんに、笑ってしまった。
「マザコンだったの?元旦那。」

なっちゃんは苦笑した。
「そう言っちゃってイイと思います。……優しい人でしたけど、その優しさは私にだけじゃなかった。姑の願いや望みを無碍にすることはできなかったようです。」

ふ~ん。

……あ!
「そうだ。去年の大晦日に、怪しい男が来たんだけど……なっちゃんの元旦那って、どんな奴?色の白い背の高い男前?」

なっちゃんは思いっきり怪訝な顔をした。
「怪しい?……もしかして、興信所のヒトかしら。元夫ではないと思います。全くかっこよくないですから。」

興信所?

「興信所の人間ってもっとコソコソしてないか?常連さん達とえらい盛り上がってたけど。」
てか、興信所がどうして出てくるんだ?

元旦那、マザコンなだけじゃなくて、ストーカーなのか?
< 104 / 282 >

この作品をシェア

pagetop