カフェ・ブレイク
「また来ていい?」
頼之くんは、席を立つ時に、おそるおそるそう聞いた。

俺は盛大にニッコリと笑顔を見せた。
「もちろん!毎日でもいいってば。……代金は小門に払わせるから、遠慮しないで、いつでもおいで。」

片頬だけ上げて、頼之くんは手を振った。
「それは無理。部活忙しいから。……でも、また来るよ。ありがとう、マスター。」

「どういたしまして。あ、真澄さんも連れてきてね。」
ドアに手をかけて帰りかけていた頼之くんの歩みが止まった。

「……マスター、母のこと、好きですよね?」
振り向きもせず、頼之くんはそう言った。

はじめて、ヒトから指摘されて……マジで心臓が止まるかと思った。
返事できない。
ただ、生唾を飲み込んだ。

頼之くんは、寂しそうに言った。
「マスターが俺の継父になってくれたらいいのに、って小さい頃思ってました。」

……俺も……
俺も、君を……

口は開くのだが、言葉が出ない。

ぱくぱくしてる俺に、頼之くんは特に返事を求めることもなく、ドアを開けた。

「わ!すみません!」
ちょうど店にやってきたなっちゃんが、頼之くんの開けたドアにぶつかったらしい。

「いたた……どういたしまして。」

「大丈夫?」
なっちゃんに声をかけてる俺に、頼之くんは会釈して行ってしまった。

「珍しいですね。中学生のくせに1人で来るなんて。」
額をさすりながら、なっちゃんはそう言ってカウンターに座った。

「なっちゃんだって、中学生のくせに、1人で来とったやん。よく言うよ。ブレンドでいい?」
「……タレーランもあのチケットで飲んでもいいの?」

もちろんほんとはダメだ。
値段が違い過ぎる。
でもなっちゃんだから……

「いいよ。」
ついそう言ってしまった。


なっちゃんは、ニコニコと贅沢な香りを楽しんでいたが、突然すっとんきょうな声をあげた。
「あ!思い出した!今の中学生!よく店の中を覗いてる子だ!」

え?

「俺、見たことないけど……」

なっちゃんは、ふふんと、笑った。

「章(あきら)さんの立ち位置からだと見えにくいんですよ。ほら、そこの一番端の窓。ここは棚で陰になってるんですよ。……私も昔から覗いてるけど、あの子もよく店内を見てましたよ。てか、お互いに縄張り争いしてる気分でした。」

……知らなかった。

「もしかして、なっちゃん、俺と2人きりになれるタイミングを計ってた?」

なっちゃんは少し赤くなった。
「私のことはいいから!あの子は、覗いてるのはしょちゅう見てたけど、店にいるのを見たのは初めてでした。もう中学生なんですね~。」

……そっか。

「そんなに、しょっちゅう、店の前までは来てたんだ。……かわいそうに。」

胸が痛い。

沈痛な顔をした俺に、なっちゃんが首をかしげた。
< 116 / 282 >

この作品をシェア

pagetop