カフェ・ブレイク
……これから頼之くんが店に来てくれるのなら、なっちゃんも顔を合わせることが増えるかもしれない。
黙ってる理由もないだろう、と、俺は口を開いた。

「あの子は頼之くん。小門の息子。」

なっちゃんは目を大きく見開いた。
「じゃあ、本妻さんの……」

黙ってうなずく。
なっちゃんはしばらく黙りこくっていた。

……そういや、なっちゃんのご両親も離婚したんだった。
自分に照らし合わせる部分もあるのかもしれない。


「……一番の被害者が、あの子なのね。」
やっと出た言葉はソレだった。

「私、本妻さんに対して、すごーく嫌なイメージもってるんです。婚姻の実態がないのに妻の座にしがみついて、玲子さん、かわいそう!って。……でも、あの子を見てしまうと、仕方ないのかなって思っちゃいますね。」

しみじみそう言ったなっちゃんに、苦虫を噛み潰した気分になった。
「頼之くんのお母さんはそんな女じゃないよ。」
むしろ、小門にしがみついてる嫌な女は玲子だろ。

「……本妻さん……そんなに素敵なヒトなんですか?」
なっちゃんの聞き方は、ちょっと皮肉っぽかった。

俺は、何も言えなかった。
真澄さんは素敵だ!女神だ!聖女だ!……と、本気で賛美してるけど、今のなっちゃんとの関係を鑑みると、さすがに言えない。
なるべく客観的に、事実のみを述べた。

「まあ、あの堅物の小門が、長年付き合って結婚まで考えてた玲子と別れたぐらいだから、魅力的な女性なんじゃないですか?」

でもなっちゃんは、顔を歪めた。
「ずるい表現。……成之(なるゆき)さんが本妻さんのことをずっと心の奥で大切にしてるのがバレバレなのが、玲子さんにはつらくてしょうがないのに、章さんもイチイチ玲子さんばかり責めて。本妻さんは、男性には好かれても、女性からは嫌われるタイプなんですか?」

……何言ってんだよ。
マジでムカついた。
「何も知らないくせに、いいかげんなこと言うなよ。」

なっちゃんは、悲しい顔になった。
「……ほら。章さん、いつも、本妻さんの味方ばかり。玲子さんが、かわいそう。」

何だ、それ。
結局、なっちゃんは、玲子から何だかんだと聞いていて、玲子サイドに立ってしか物事を見ようとしていないんじゃないか。

玲子のやつ!

よけなことを、なっちゃんに吹き込むなよ。
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