カフェ・ブレイク
コーヒー豆をいつもより念入りに選別して、ゴリゴリと挽く。
「いい香り……。やっぱり、違いますね。」
目を閉じた真澄さんに、動揺してしまう。
まるで少年に戻ったかのような自分に苦笑するしかない。
「よろしければ豆をお分けしましょうか?」
……うちはコーヒー豆の販売を行っていない。
うちの店の敷地からわき出る水との相性を考えてブレンドしているので、水道水やペットボトルの水では味が変わってしまうのだ。
「え?いいんですか?」
真澄さんは驚いた顔まで美しい。
いくつになっても、少女のような透明感を失っていない。
「他のお客さまには内緒ですよ。」
声のトーンを落としてそう言った。
真澄さんはそろりと店内を見た。
テーブル席に数人のお客さまがいらっしゃるが、毎日来る常連さんというわけではないので、まあ、大丈夫だろう。
「ありがとうございます。」
小声で真澄さんはそう言ってから、苦笑した。
「一度いただいてしまうと、もう他のコーヒー豆じゃ満足してくれなくなっちゃいそう。……頼之、喜びます。」
「そうですね。今後もこっそりお分けしますよ。いつでもいらしてください。……14時以後なら、あいつは来ませんから。」
真澄さんの笑顔が少し曇った。
……ごめん……そんな顔をさせるつもりはなかったのに……
俺は、すぐに後悔した。
でも真澄さんは、すぐに笑顔を取り戻した。
「わかりました。お気遣いありがとうございます。」
ドキドキする。
これから、頼之くんだけじゃなくて、真澄さんも来店してくれるのだろうか。
本当は、コーヒー豆を販売する、というのは最後の賭けだった。
……店と同じ豆を家で飲むことができるなら、わざわざ割高な店に来る必要がない……と考えるお客さまも多いからだ。
もちろん、同じ味になるわけがないのだが、それでも少しでもお得なほうを選ぶのは当然のことだろう。
でも、真澄さんは、数年に1度しか来店してくれない。
豆を餌におびき寄せられるのなら、どんなにかうれしいだろう。
でも、真澄さんのつぶやきは俺の期待するものではなかった。
「あの子、マスターにずっと会いたがってたから、ちょくちょく寄る理由ができて喜ぶわ。」
……。
頼之くんが来てくれるのは、俺もめちゃめちゃうれしいよ。
でも、そうじゃないんだ。
あなたに……真澄さんに来てほしいんだ。
感情が、血管を逆流しそうだ。
ほとばしる想いをひたすら押さえ込み、俺は声を絞り出した。
「私も楽しみですよ。」
「いい香り……。やっぱり、違いますね。」
目を閉じた真澄さんに、動揺してしまう。
まるで少年に戻ったかのような自分に苦笑するしかない。
「よろしければ豆をお分けしましょうか?」
……うちはコーヒー豆の販売を行っていない。
うちの店の敷地からわき出る水との相性を考えてブレンドしているので、水道水やペットボトルの水では味が変わってしまうのだ。
「え?いいんですか?」
真澄さんは驚いた顔まで美しい。
いくつになっても、少女のような透明感を失っていない。
「他のお客さまには内緒ですよ。」
声のトーンを落としてそう言った。
真澄さんはそろりと店内を見た。
テーブル席に数人のお客さまがいらっしゃるが、毎日来る常連さんというわけではないので、まあ、大丈夫だろう。
「ありがとうございます。」
小声で真澄さんはそう言ってから、苦笑した。
「一度いただいてしまうと、もう他のコーヒー豆じゃ満足してくれなくなっちゃいそう。……頼之、喜びます。」
「そうですね。今後もこっそりお分けしますよ。いつでもいらしてください。……14時以後なら、あいつは来ませんから。」
真澄さんの笑顔が少し曇った。
……ごめん……そんな顔をさせるつもりはなかったのに……
俺は、すぐに後悔した。
でも真澄さんは、すぐに笑顔を取り戻した。
「わかりました。お気遣いありがとうございます。」
ドキドキする。
これから、頼之くんだけじゃなくて、真澄さんも来店してくれるのだろうか。
本当は、コーヒー豆を販売する、というのは最後の賭けだった。
……店と同じ豆を家で飲むことができるなら、わざわざ割高な店に来る必要がない……と考えるお客さまも多いからだ。
もちろん、同じ味になるわけがないのだが、それでも少しでもお得なほうを選ぶのは当然のことだろう。
でも、真澄さんは、数年に1度しか来店してくれない。
豆を餌におびき寄せられるのなら、どんなにかうれしいだろう。
でも、真澄さんのつぶやきは俺の期待するものではなかった。
「あの子、マスターにずっと会いたがってたから、ちょくちょく寄る理由ができて喜ぶわ。」
……。
頼之くんが来てくれるのは、俺もめちゃめちゃうれしいよ。
でも、そうじゃないんだ。
あなたに……真澄さんに来てほしいんだ。
感情が、血管を逆流しそうだ。
ほとばしる想いをひたすら押さえ込み、俺は声を絞り出した。
「私も楽しみですよ。」