カフェ・ブレイク
静かな時間が過ぎていく。
極上の漆黒にうっとりと夢見心地な真澄さんを、失礼がない程度に、眺める。
手を伸ばせばすぐ届くところに、想い続けてた美しい人がいるのに、俺には何もできない。
ただ両手を握りしめて、立ち尽くすだけ。
幸せなのに惨めだ。
彼女の瞳に、俺はどう映ってるんだ。
頼之くんですら気づいた俺の想いを、真澄さんがわかってないとは思えない。
……やっぱり、俺の想いは迷惑でしかないんだろうな。
でなきゃ、こんなにも来店回数が少ないわけがないよな。
情けない……。
けっこう自信家な俺なのに、自分でも信じられないぐらいに心許ない。
今、立っている足元が崩れてしまいそうだ……。
テーブル席のお客さまが、一組ずつ帰って行かれる。
外が薄暗くなり始めた頃、頼之くんがやってきた。
「いらっしゃいませ……大丈夫?」
端正な頼之くんの右頬とあごに赤い擦過傷ができていた。
「痛いですよ。けっこう腫れそう。……でも、スタメンに入れました。」
頼之くんの目に闘志の残り火が映っていた。
「え!すごいじゃない!おめでとう!がんばったんだね!じゃあその傷は勲章?」
頼之くんは、真澄さんの隣に座って、悔しそうな顔をした。
「いや。これは……」
「身体の大きな先輩に当たられて転倒したのよね。それも身内のチームの。」
涼しい顔で真澄さんが言った。
相手チームじゃなくて、自分のチームの奴にやられたのか。
……1年にスタメンを取らせたくなかったんだろうな。
頼之くんはばつの悪そうな顔になった。
「あれがなければ、フォワードになれたかもしれないのに、ディフェンダーだって。」
「……いや、そんな奴がいるなら、むしろディフェンダーでよかったんじゃない?」
注文されてないけど、コーヒーの準備を始めながら、俺は続けた。
「チーム全員が頼之くんなら、フォワードでも何でも好きなポジションでいいけどさ、今のチームじゃ、フォワードの頼之くんにはボールが回ってこないよ。ましてやミッドフィルダーなんて……」
誰も言うこと聞いてくれないだろうよ。
「ディフェンスなら、意地悪い先輩に邪魔されることなく、頼之くんの能力を発揮できるし、伸ばせると思うよ。」
むしろ、守りの要(かなめ)としてなら、早々に認めてもらえるかもしれない。
「いいんじゃない?1年の間は信頼に足る選手と認めてもらえるように尽力すれば。2年では別のポジションに抜擢してもらえるよ。3年でチームの主軸になるのを目標にして、長い目でがんばれ。……高校もあるし。」
口を結んだまま俺の言葉を聞いていた頼之くんが、ようやくため息をついた。
極上の漆黒にうっとりと夢見心地な真澄さんを、失礼がない程度に、眺める。
手を伸ばせばすぐ届くところに、想い続けてた美しい人がいるのに、俺には何もできない。
ただ両手を握りしめて、立ち尽くすだけ。
幸せなのに惨めだ。
彼女の瞳に、俺はどう映ってるんだ。
頼之くんですら気づいた俺の想いを、真澄さんがわかってないとは思えない。
……やっぱり、俺の想いは迷惑でしかないんだろうな。
でなきゃ、こんなにも来店回数が少ないわけがないよな。
情けない……。
けっこう自信家な俺なのに、自分でも信じられないぐらいに心許ない。
今、立っている足元が崩れてしまいそうだ……。
テーブル席のお客さまが、一組ずつ帰って行かれる。
外が薄暗くなり始めた頃、頼之くんがやってきた。
「いらっしゃいませ……大丈夫?」
端正な頼之くんの右頬とあごに赤い擦過傷ができていた。
「痛いですよ。けっこう腫れそう。……でも、スタメンに入れました。」
頼之くんの目に闘志の残り火が映っていた。
「え!すごいじゃない!おめでとう!がんばったんだね!じゃあその傷は勲章?」
頼之くんは、真澄さんの隣に座って、悔しそうな顔をした。
「いや。これは……」
「身体の大きな先輩に当たられて転倒したのよね。それも身内のチームの。」
涼しい顔で真澄さんが言った。
相手チームじゃなくて、自分のチームの奴にやられたのか。
……1年にスタメンを取らせたくなかったんだろうな。
頼之くんはばつの悪そうな顔になった。
「あれがなければ、フォワードになれたかもしれないのに、ディフェンダーだって。」
「……いや、そんな奴がいるなら、むしろディフェンダーでよかったんじゃない?」
注文されてないけど、コーヒーの準備を始めながら、俺は続けた。
「チーム全員が頼之くんなら、フォワードでも何でも好きなポジションでいいけどさ、今のチームじゃ、フォワードの頼之くんにはボールが回ってこないよ。ましてやミッドフィルダーなんて……」
誰も言うこと聞いてくれないだろうよ。
「ディフェンスなら、意地悪い先輩に邪魔されることなく、頼之くんの能力を発揮できるし、伸ばせると思うよ。」
むしろ、守りの要(かなめ)としてなら、早々に認めてもらえるかもしれない。
「いいんじゃない?1年の間は信頼に足る選手と認めてもらえるように尽力すれば。2年では別のポジションに抜擢してもらえるよ。3年でチームの主軸になるのを目標にして、長い目でがんばれ。……高校もあるし。」
口を結んだまま俺の言葉を聞いていた頼之くんが、ようやくため息をついた。