カフェ・ブレイク
「……壮大な対局だな。しかも、やっと詰んだと思っても、3年後には一手目からやり直し、か。」
真澄さんがニコニコと笑顔で頼之くんを見つめている。
頼之くんは苦笑した。
「お母さん、楽しそうですね。」
「あら!」
真澄さんは、花のように笑った。
「楽しいわよ。頼之はちっちゃい頃から何でもできたから、たいした苦労も挫折もしてないでしょ?このままじゃ、鼻持ちならない嫌なオトナになりそうで心配だったの。やっと他人さんと正面からぶつかって、もみくちゃにされて、なぎ倒されたんだもの。心の中で拍手喝采しちゃったわよ。これからも、切磋琢磨してらっしゃい。公明正大にね。」
勇ましい言葉が並んでるが、やはりどこか浮き世離れした理想主義的なハッパだな。
頼之くんも笑顔で真澄さんに応えたけれど、俺には肩をすくめて見せた。
真澄さんと頼之くんは、仲睦まじい母と息子だったが、べったりとした依存関係は感じなかった。
お互いに相手を思い合い、守り合いながらも、一定の距離があるようだ。
やはり、父親不在に起因するんだろうな。
……思春期男子だもんな、イロイロあるよな。
相好を崩してるのを自覚しながらも、俺は2人から目を離せなかった。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。」
真澄さんの言葉に、慌ててコーヒー豆を準備した。
「すみません。袋もないので、とりあえずコレ。次は用意しときますね。」
空いていた瓶に豆を詰めて、真澄さんに差し出した。
「ありがとうございます。お代金はいかほどになりますか?」
いらない!と言いたいけど、却って恐縮されるのがわかってるので、原価と今日のコーヒー代を普通に頂戴することにした。
「安すぎるんじゃないの?」
横から頼之くんがそう言ったけど、
「損はしてないよ。」
と、なだめた。
2人を見送った後、俺は言いようのない喪失感にかられた。
……ダメだ。
どうしても、愛しい。
忘れることも、諦めることも、一歩踏み出すこともできない。
彼女が笑顔で俺を近寄らせないようにしているのが、わかるから。
俺には、何も言えない。
真澄さんの優しい無関心の前で、たまらなく俺は無力だ……。
「……はは……」
乾いた笑いがこみあげてくる。
いつまでこんな空回りを続けるんだろう。
もう、何年、こうして決して報われない想いをもてあましてるんだろう。
俺は馬鹿だ。
自分で自分が嫌になる。
もう、いいかげん……諦めてしまいたい。
真澄さんがニコニコと笑顔で頼之くんを見つめている。
頼之くんは苦笑した。
「お母さん、楽しそうですね。」
「あら!」
真澄さんは、花のように笑った。
「楽しいわよ。頼之はちっちゃい頃から何でもできたから、たいした苦労も挫折もしてないでしょ?このままじゃ、鼻持ちならない嫌なオトナになりそうで心配だったの。やっと他人さんと正面からぶつかって、もみくちゃにされて、なぎ倒されたんだもの。心の中で拍手喝采しちゃったわよ。これからも、切磋琢磨してらっしゃい。公明正大にね。」
勇ましい言葉が並んでるが、やはりどこか浮き世離れした理想主義的なハッパだな。
頼之くんも笑顔で真澄さんに応えたけれど、俺には肩をすくめて見せた。
真澄さんと頼之くんは、仲睦まじい母と息子だったが、べったりとした依存関係は感じなかった。
お互いに相手を思い合い、守り合いながらも、一定の距離があるようだ。
やはり、父親不在に起因するんだろうな。
……思春期男子だもんな、イロイロあるよな。
相好を崩してるのを自覚しながらも、俺は2人から目を離せなかった。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。」
真澄さんの言葉に、慌ててコーヒー豆を準備した。
「すみません。袋もないので、とりあえずコレ。次は用意しときますね。」
空いていた瓶に豆を詰めて、真澄さんに差し出した。
「ありがとうございます。お代金はいかほどになりますか?」
いらない!と言いたいけど、却って恐縮されるのがわかってるので、原価と今日のコーヒー代を普通に頂戴することにした。
「安すぎるんじゃないの?」
横から頼之くんがそう言ったけど、
「損はしてないよ。」
と、なだめた。
2人を見送った後、俺は言いようのない喪失感にかられた。
……ダメだ。
どうしても、愛しい。
忘れることも、諦めることも、一歩踏み出すこともできない。
彼女が笑顔で俺を近寄らせないようにしているのが、わかるから。
俺には、何も言えない。
真澄さんの優しい無関心の前で、たまらなく俺は無力だ……。
「……はは……」
乾いた笑いがこみあげてくる。
いつまでこんな空回りを続けるんだろう。
もう、何年、こうして決して報われない想いをもてあましてるんだろう。
俺は馬鹿だ。
自分で自分が嫌になる。
もう、いいかげん……諦めてしまいたい。