カフェ・ブレイク
「まだお店、開けてるんですか?」
おあつらえ向きに、なっちゃんが入ってきた。

「章(あきら)さん?やっぱり体調悪いの?閉店作業、手伝いましょうか?」
そう言いながら、なっちゃんはドアの「OPEN」をCLOSED」に変えて、カーテンを引いた。
そして、 カウンターに残る頼之くんと真澄さんのカップやグラスを下げて、シンクで洗い始めた。
「ほんとに調子悪そう。座ってて。私、やるから。お酒も、今夜は辞めたほうがいいかもしれませんね。」
心配そうに、そう言ったなっちゃんは……本当にいじらしくて、かわいくて……俺への愛情を惜しみなく溢れさせてくれている。

こんなに綺麗な子が、こんなにも想ってくれてるのに、俺はどうしてこの子を愛せないんだろう。
……いや、違うな。
愛してないことは、ない。
普通に付き合ったり、一緒に住んだり……結婚を考えてもいいぐらいには、なっちゃんのことが好きだ。
それは、愛と呼んでも差支えのないだろう。

でも……ごめん……違うんだ。
心の中の特別な場所に、真澄さんがいる。
どうしても、真澄さんが、俺の心から消えない。
消えないんだ……。


「章さん?顔色悪い……吐く?」
心配そうに俺の顔をのぞきこんだなっちゃん。

かわいくて、いとしくて、うれしいのに……君が真澄さんじゃない、ただその1点だけで、俺は……俺は……
「ごめん。」
そう言って、なっちゃんを抱きしめた。

自分でも、こんなの、ずるいと思う。
なっちゃんに、ほんと、失礼だと思う。
でも、俺は衝動を押さえることも、我慢することもできなかった。


毎日綺麗にしているとは言え、さすがに厨房の床に押し倒すわけにはいかない。
俺が座った膝の上になっちゃんを座らせて、慌ただしく抱いた。

なっちゃんは突然で驚いただろうに、文句も言わずに、俺にしがみついて耐えていた。
抵抗されないのをいいことに、俺はやけくそのように続けた。
なっちゃんの吐息が嬌声を帯びてきた。
いつもならかわいく思うのに、今日はやりきれなかった。

黙れとも言えず、口封じに唇をむさぼった。
舌を絡めて口中を蹂躪すると、なっちゃんの中が心地よく蠢いた。

クソっ!
……何をやっても、裏目裏目に出てる気がする。
ごめん……。

真澄さんを想ってなっちゃんを抱いても、ただ虚しいだけだった。
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