カフェ・ブレイク
その夜、店を閉めてから車で小門の別宅へ行った。
なっちゃんは夕方には着いてたらしく、ドアを開けるとイイ香りが漂ってきた。
「いらっしゃい。」
私服の小門が迎え出てくれた。

「これ、手土産。シーバス・リーガル25年モノ。夕食、何?」
「はーい。豆ご飯でーす。若竹煮と、鯛のかぶと煮。一緒に炊いたごぼうに味がしみしみでーす。」
なっちゃんがそう言いながら奥から出てきた。
……どうやら玲子の趣味らしいひらひらエプロンを付けたなっちゃんに苦笑する。

「また、えぐいの付けて。」
「えぐい?ですか?……章(あきら)さん、こういう乙女ちっくなフリルとか、お好きじゃありませんよね?以前にもひどいこと言われた気がする。」
しょんぼりするなっちゃんの頭をくしゃっと撫でて謝りながら、通り過ぎてリビングへ進んだ。

……嫌いなわけじゃないけど、玲子もなっちゃんも、何か、似合ってない気がするんだよな。
玲子はもっととげとげしいし、なっちゃんはもっと綺麗系が似合う。

てか、乙女チックって……既に乙女じゃないじゃん。
ひらひらは、やっぱり子供のほうがかわいいと思うんだけど。

……いや。
真澄さんなら、ひらひらもかわいいかもな。


ダイニングでは、玲子が既に酔っ払っているようだった。
「よぉ。ハイナン土産、ありがとな。」
そう挨拶すると、玲子は顔を上げた。
「あ~、章(あきら)~。相変わらず、無駄に、かっこいいわね~。むだに!」

「むだだな、確かに。」
同意して、玲子から缶ビールを取り上げた。
「ちょー!返してー!」

「もっといいもん持って来たから。美味いぜ。酔っ払いにやるのは惜しいぐらい。」
手を伸ばす玲子にシーバス・リーガルの瓶を渡して、奪った缶ビールを飲み干した。
ビールはずいぶんとぬるくなっていた。

「はいはい。玲子さん、続きは食事の後にしましょう。」
そう言いながら、なっちゃんが配膳してくれた。
一応4人で食卓を囲んだが……玲子は一口も食べず、ほぼ寝ていた。

「こいつ、いつから飲んでたの?」
「えーと、私がお昼にお電話した時には、もう飲んでらしたような。」

昼から、かよ。
もともとそんなに酒が強いわけでもないのに、こりゃダメだな。

小門は沈鬱な顔で黙々と食事していた。
「お口に合いませんでしたか?……一週間以上海外にいらしたから、和食のほうがいいかと思ったんですけど……物足りませんか?」

なっちゃんが心配そうに小門に聞いた。
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