カフェ・ブレイク
「これからも、仲良くしてやってくれると助かるよ。他に友達もいないし。……俺には話せないこともあるし。」
小門がそう頼むと、なっちゃんはうなずいてから、俺の顔をチラッと見た。
「あの……お子さんのこと……気にしてらしゃいました。お子さんと暮らしたいんじゃないか、って。」
なっちゃんにそう言われて、小門は目を伏せた。
「今さら、無理だよ。いいんだ、とっくにあきらめてるから。親はなくとも子は育つ、から。」
「そうですね。玲子さんは、小門さんがいなければ生きていけない、そうです。」
追い打ちをかける気か!なっちゃん!
「……わかってるよ。」
小門はそれ以上は何も言わず、ただ酒を飲み続けた。
せっかくのイイ酒なのに、誰もが味と香りに酔いしれることもなく……苦い現実から逃れるためのよすがにしてしまった。
数日後、頼之くんが閉店間際に意気揚々とやってきた。
頬の傷はほぼ黒いかさぶたになり、順調に直ってきてるようだった。
きらきらと額に汗を光らせて、頼之くんは右手の拳を上げてみせた。
「勝った?」
そう聞くと、頼之くんは、うれしそうに笑ってうなずいた。
「3対3で思いっきりぶっ飛ばしてやった。」
「上級生を?大丈夫?報復されない?」
大きなグラスにお水をいっぱい入れて差し出しながらそう言った。
「ありがとう!」
と、頼之くんはごくごくと飲み干してから、胸を張った。
「わかんないけど、やられっぱなしは性に合わないから、俺も遠慮しないことにした。……まあでも、どうせ夏が終われば3年は引退だから。」
遠慮しないって……。
「ほどほどにね。」
頼之くんは、力強くうなずいた。
神戸のみなとまつりの日、なっちゃんがこわばった顔で店に飛び込んで来た。
「いらっしゃいませ。……何かありましたか?」
赤い上気した顔に大きな汗の粒が光っていた。
「……仕事の話をいただきました。」
席に着くなり、なっちゃんはそう言った。
「それはよかったですね!おめでとうございます。産休の代用ですか?」
お水を出しながらそう聞くと、なっちゃんは首を振った。
「前任者が今年いっぱいで定年らしくて、後任を打診されたので……少なくとも数年はいられるかも?」
「……てことは、公立の学校じゃないんですか?」
「はい。3月まで勤めてた学校と同系列の学園です。すごく居心地も待遇もよかったから、うれしくって。」
なっちゃんは本当にうれしそうだった。
でも俺は、少しずつドキドキしてきた。
前の学校って、東京だろ?
どこへ行くんだ?
小門がそう頼むと、なっちゃんはうなずいてから、俺の顔をチラッと見た。
「あの……お子さんのこと……気にしてらしゃいました。お子さんと暮らしたいんじゃないか、って。」
なっちゃんにそう言われて、小門は目を伏せた。
「今さら、無理だよ。いいんだ、とっくにあきらめてるから。親はなくとも子は育つ、から。」
「そうですね。玲子さんは、小門さんがいなければ生きていけない、そうです。」
追い打ちをかける気か!なっちゃん!
「……わかってるよ。」
小門はそれ以上は何も言わず、ただ酒を飲み続けた。
せっかくのイイ酒なのに、誰もが味と香りに酔いしれることもなく……苦い現実から逃れるためのよすがにしてしまった。
数日後、頼之くんが閉店間際に意気揚々とやってきた。
頬の傷はほぼ黒いかさぶたになり、順調に直ってきてるようだった。
きらきらと額に汗を光らせて、頼之くんは右手の拳を上げてみせた。
「勝った?」
そう聞くと、頼之くんは、うれしそうに笑ってうなずいた。
「3対3で思いっきりぶっ飛ばしてやった。」
「上級生を?大丈夫?報復されない?」
大きなグラスにお水をいっぱい入れて差し出しながらそう言った。
「ありがとう!」
と、頼之くんはごくごくと飲み干してから、胸を張った。
「わかんないけど、やられっぱなしは性に合わないから、俺も遠慮しないことにした。……まあでも、どうせ夏が終われば3年は引退だから。」
遠慮しないって……。
「ほどほどにね。」
頼之くんは、力強くうなずいた。
神戸のみなとまつりの日、なっちゃんがこわばった顔で店に飛び込んで来た。
「いらっしゃいませ。……何かありましたか?」
赤い上気した顔に大きな汗の粒が光っていた。
「……仕事の話をいただきました。」
席に着くなり、なっちゃんはそう言った。
「それはよかったですね!おめでとうございます。産休の代用ですか?」
お水を出しながらそう聞くと、なっちゃんは首を振った。
「前任者が今年いっぱいで定年らしくて、後任を打診されたので……少なくとも数年はいられるかも?」
「……てことは、公立の学校じゃないんですか?」
「はい。3月まで勤めてた学校と同系列の学園です。すごく居心地も待遇もよかったから、うれしくって。」
なっちゃんは本当にうれしそうだった。
でも俺は、少しずつドキドキしてきた。
前の学校って、東京だろ?
どこへ行くんだ?