カフェ・ブレイク
なっちゃんは、怪訝そうに俺を見た。
「どういう意味ですか?」

「別に。もう会うこともないんだろ。横浜に嫁いだ時と同じように。」
イライラが止まらない。

「……そんなつもり、ありませんでした。土日はお休みだし、いつでも来れると思ってました。」
なっちゃんは本当にそう思ってたらしく、戸惑っていた。
「ちゃんと自活しないと、章さんに認めてもらえないと思ってがんばるつもりなんですけど……もしかして、章さん的には無職でもココにいたほうがよかったですか?」

本音はイエスだ。
でも、ソレがいかに身勝手か……小門にも手厳しく言われた通り、なっちゃんにペットでいてほしいなんて失礼すぎて言えるわけない!

口をつぐんだまんまの俺に、なっちゃんは何を勘違いしたのか、謝った。
「ごめんなさい。図々しい発言でした。」

違う……。
違うのに。
俺はどうしてもちゃんと言えない。


ここにいてほしい。
俺と一緒にいてほしい。


この想いを、何て表現すればいいのか。
好き?
愛してる?
結婚しよう?

……どれも簡単に言えそうなのに、いざ口を開こうとすると、真澄さんの笑顔がちらつく。
重症だな。



結局、俺たちの想いはすれ違ったまんま。
それでも美味いもんは美味いんだから、ほんと、男と女ってやつは、どうしようもないな。
なっちゃんのこの身体と料理が、俺の生活からまた消えてしまうのか。
本当にそれでいいのか?

俺は、毎日毎日何度も何度も自分に問うた。

どうしても手放したくない、と思う瞬間もあれば、仕方ないとあきらめる時間もある。
だんだん自分でも、わけがわからなくなってきた。
酒に酔った勢いで、「行くな」と言ってみたところで、何にも変わらない。
俺を置き去りにして、時間が過ぎていく。



クリスマスは、小門のマンションで過ごした。
なっちゃんの心尽くしのご馳走も、この時間も、愛しかった。



大晦日から元日にかけて、なっちゃんはお母さんの婚家へ行った。
小門と玲子は、恒例の海外旅行。

俺はと言えば例年通り年末年始も営業してるので、通常通りの毎日を送る。

常連さんからいただいたおせち料理のおすそ分けを、最上階の両親に届けて、そのまま紅白を見ながら父親と酒を飲むのも毎年恒例。
でも今年は両親の反応が違った。

「夏子さんの届けてくださるお料理のほうが美味しい。」
「夏子さんにお願いして、おせち料理を作ってもらえばよかった。」
「夏子さんはいつ帰ってくるのか。」

夏子さん夏子さん夏子さん……

そんなに気に入ったのなら、あんたらが引き留めてくれよ。

てか、なっちゃん……もしかして、和食が増えたのも、うちの両親の口に合うように、か?
いい子過ぎるだろ。
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