カフェ・ブレイク
褒められて怒られてるわけだ。

付き合ってられね~……と、俺は道具を片付け始めた。
「さあ?いろいろ試してて、味がまろやかになったと私が感じた方法を組み合わせてみました。」

賛否両論だとは思うけど、ただ優しいだけの味を求めるなら、それでいいだろ。

おしぼりで涙を拭ったなっちゃんは、俺を睨(ね)め付けた。
「私……古城さんが、好きです。」

突然、なっちゃんがそう言った。
このタイミングで告白されるとは思わず、俺は動揺すると同時に、苛ついた。

「店ではマスターと呼んでくれって言うたはずやけど。」
突然のなっちゃんの告白に苛ついた俺は、いつもの慇懃無礼なまでの敬語を使うのもやめてしまった。

なっちゃんは、慌てて小さな声で謝った。
「……ごめんなさい。」
うつむいてまた泣くなっちゃん。

……泣かれてもなあ。

「今はいいけど、他のお客様が来られたら、すっごく迷惑やから。」
俺はわざと顔をしかめるようにそう言った。
「……はい。」

再びおしぼりを目に宛てたなっちゃんに、ため息をつきながら新しいおしぼりを差し出した。
「どうぞ。気持ちはありがたく受け取らせていただきますね。でも、サービス業の男に安っぽい優しさなんか求めては、いけませんよ。」
いつもの口調に戻してそう窘めると、なっちゃんの表情が固まり、口元がぎゅっとへの字に結ばれた。

怒ってる怒ってる。
不思議と、俺に対して怒っているなっちゃんがすごく可愛く見えた。
……何だろうな……俺も、かなり歪んでるのかもしれない。

ふと、今のやりとりを思い返す。
俺はなっちゃんを振ったことになるのだろうか?

よくわからないな。
わからないけれど、なっちゃんは、振られたと感じたようだ。
まあ、それならばそれでいいだろう。

少なくとも今の俺は、高校生のなっちゃんに対して、何ら手を出すつもりもないし。
もちろん嫌いじゃない。
かわいいとも思う。
後腐れがないなら、なっちゃんを家に連れ込むのもいい。

でも、背後に大瀬戸さん……つまり、なっちゃんのお母さんが控えてると思うと……やっぱり簡単に手を出すことはできない。

俺の家が何の不動産も持ってなくて、俺が喫茶店の雇われマスターでも、大瀬戸さんは俺をなっちゃんの相手にと望むだろうか。

無意味な仮定のようでも、俺にとっては大事な問題だった。
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