カフェ・ブレイク
ついでに生クリームたっぷりのココアを作ってみた。
「どうぞ。あったまってください。」

真澄さんは、ほわっと柔らかくほほ笑んだ。
「ありがとうございます。うれしい。おぜんざい、量が足りなくて、私は食べられなかったんです。」
「……親って大変なんですね。」

子供だけじゃなくて、保護者にも先輩後輩関係は影響するのか。
不条理だな。

何か作ってあげたいけど、うちには食材がない。

せめて……と、常連さんがくれたクッキーや焼き菓子を少し温めて真澄さんに出した。

すぐに帰ると言ったのに、頼之くんはなかなか戻ってこなかった。
冷え切った体が温まったからか、今朝起きた時間が早かったのか……気づけば、真澄さんの目が閉じられていた。

寝ちゃった?
……かわいい寝顔だな。
34歳なのに、あんなに大きな子供がいるのに……やっぱり聖女マリアだと思う。

真澄さんが寝てるのをいいことに、俺は遠慮なく見とれた。
風邪ひかないかな?

クリーニング済の少し大きめの膝掛けを出してきて、そーっとそーっと真澄さんの肩に掛けた。
真澄さんが寝てることに気づいた他のお客さんが、声のトーンを落として帰って行った。

冬の日差しがやわらかい、ぽかぽかの店内に真澄さんと2人きり。
……まるで夢のようだ。
ココは天国か?
このまま誰も来なければいいのに。

俺は、真澄さんの前に座って、ただ、寝顔を見ていた。
まぶたの下で眼球が動いているのも、わずかに動くまつげも、いくら見ていても飽きなかった。
緩んだ口元から少しよだれが出てきても、幻滅できない。
かわいいとしか思えなかった。

そーっとそーっと真澄さんの口元にティッシュをあてる。
わずかに眉が動いたけれど、真澄さんは起きなかった。

……もう少しだけ。
あと少しだけ。
この時間が続いてほしい。
夢見る少年に戻った気分で、俺は真澄さんを見つめていた。

どれぐらい時間がたったのだろうか。
真澄さんの傾いた左肩から、はらりと膝掛けが落ちた。

そっと俺は立ち上がり、真澄さんの背後に回った。
半分落ちた膝掛けの端を拾い上げて、再び真澄さんの肩へ掛ける。

……近づいた真澄さんから、ふわりとイイ香りがした。
シャンプーの香りでも、化粧品の香りでもない、香水でもない。
これは……何だろう。
そのまま俺は離れられなくなった。

真澄さんの髪に唇を寄せる。
形のいい耳にも、白いうなじにも……触れたくて、口づけたくて……体が震えた。

必死に自分にブレーキをかける。
落ち着け。
下手したら、犯罪だぞ。

自分を律して、何とか離れようとした。

俺のエプロンが当たったらしく、再び真澄さんの左肩から膝掛けが滑り落ちた。
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