カフェ・ブレイク
「あ、でも、ごめん。もしかして、余計なことしたかも。」
頼之くんが思い出したように言った。

「ん?何?」
俺がそう聞くと、ためらいがちに頼之くんは言った。
「……よく来てる綺麗なお姉さん、誤解したかも。」

綺麗なお姉さん……て……なっちゃん?
「覗いてたの?一緒に?」

「一緒にってわけじゃないけど。表情が一気に険しくなって、すぐどっか行ったから。泣いてたかも。」

「……そう。しょうがないね。」
強がりじゃなくて、本気でそう思った。

タイミング悪過ぎるだろ、なっちゃん。
もっとゆっくり帰ってくりゃいいのに。

……そしたら、何事もなかったかのように俺はしれっとプロポーズするはずだったのに。
こういう巡り合わせなのかな。


「あ、起きた。」
頼之くんのつぶやきに振り返ると、真澄さんの目がパチパチとしていた。
「やだ……ごめんなさい。私、寝てたのね。」
ほんのりと頬が紅潮した真澄さんは、とても愛らしかった。

「大丈夫ですよ。お風邪ひかれてないといいのですが……」
「ありがとうございます。あら!これ!」
真澄さんは、膝掛けに気づいたようだ。

「よだれ垂らして寝てるから、マスターが気を遣ってくれたんだよ。汚しとらん?」
頼之くんがそう言いながら真澄さんの隣に座った。
……よだれ……そんなとこから見てたのか?

「もう!……ごめんなさい、マスター。ありがとうございます。」
恥ずかしそうな真澄さんと、ニヤニヤしてる頼之くん。

2人を見てるとそれだけで自然と笑顔になった。
「いえいえ。頼之くん、コーヒー入れますね。真澄さんには、ミックスジュースでも作りましょうか?」

真澄さんは花のようにほほ笑んで、うなずいた。



さて……。

真澄さんと頼之くんを見送り、その後来られたお客さまをもてなし、19時に閉店した。
足取り重く部屋に戻る。

……案の定と言うか何と言うか……部屋は真っ暗で冷え切っていた。
なっちゃんが一旦帰ってきた形跡はあるのだが、姿はない。

手作りっぽいおせち料理の詰まったお重箱。
だし巻き卵を口に入れる。
……うん、うまい。
なっちゃんの味だ。

叩き牛蒡、紅白なます、田作り……どれもこれも、マジで美味い。

これ、両親に届けたら喜ぶんだろうけど、プロポーズの首尾を聞かれるよな~。

他の女性にデレってたところを見られて愛想つかされたっぽい、って言っちゃっていいんだろうか。
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