カフェ・ブレイク
「2人とも余ってたら?その時は、観念して一緒になれば?」
「……嫌。章さんの中にあの人がいる限り、絶対嫌。」
苦笑してしまった。
「頑固な奴。」
意固地なほどに俺に執着してくれるなっちゃん……愛しく思わないわけがない。
「なっちゃんも、ちゃんといるよ。それでも、無理?」
やっぱり手放し難くて、俺は女々しくもそう聞いてしまった。
なっちゃんもまた後ろ髪を引かれてるのだろう。
「私だけじゃなきゃ嫌。……100歩譲っても、私のほうが大きな存在じゃないと、耐えられない。」
「それ、けっこうな譲歩だと思うよ。」
よしよし、と、なっちゃんの頭を撫でた。
「じゃあね、もしなっちゃんが再婚して子供連れて離婚してきたとしても、その時俺がフリーなら受け入れてあげるからね。」
半分冗談、半分本気でそう言った。
「そんなの、私が嫌よ!」
またぷんぷんと怒りだしたなっちゃんがかわいくて、俺は飽きもせず眺めていた。
ひとしきり暴れて、疲れて寝てしまったなっちゃんは寝顔もかわいかった。
真澄さんとはまた違う、生命力にあふれた魅力的な美人。
……もてないわけがないよな。
悪い男に引っかかるなよ。
幸せになれよ。
翌早朝、なっちゃんは始発で京都に向かうというのに、朝食を作ってくれた。
俺も無理矢理起きて、4時半に一緒に飯を食った。
「もっとゆっくりでも間に合うんじゃないの?」
……眠いより、名残惜しくて、そう聞いてみた。
「直接、勤務学校に行くなら7時前の電車でもいいんですけど……一度、部屋に戻らないといけなくて。」
いっぱい泣きすぎて、なっちゃんのまぶたはパンパンに腫れていた。
「外、まだ暗いから、駅まで送るよ。……いや、車で京都まで送ろうか。」
未練たっぷりの俺になっちゃんはほほ笑んだ。
「いい。独りで行きたい。章さん、港なんでしょ?」
……港は、動くなって?……今はただの男なんだけどな。
お望み通り、玄関先でなっちゃんを見送る。
「お世話になりました。やだ、そんな顔しないで。章さんの笑顔が好きなのに……営業スマイルも、意地悪な笑顔も、皮肉な笑顔も……みんな、好き。笑ってくれてるだけでいいの。」
そんな風に言われても、とても笑顔になんかなれなかった。
なっちゃんは悲しそうにほほ笑んだ。
「やっぱり私じゃダメね……。」
たまらずに、ぎゅっと抱きしめた。
放したくない。
行かせたくない。
「このまま、時間が止まればいいのに。」
自分の口から出た言葉に驚いた。
それは、いつも真澄さんにだけ抱いていた特別な感情のはずだった。
……俺にとって、最上級の愛の表現かもしれない……
俺は……なっちゃんを……?
呆然としてる俺を置き去りにして、なっちゃんは去って行った。
軽やかに、コートの裾を翻して。
……とても鮮やかな出航だった。
「……嫌。章さんの中にあの人がいる限り、絶対嫌。」
苦笑してしまった。
「頑固な奴。」
意固地なほどに俺に執着してくれるなっちゃん……愛しく思わないわけがない。
「なっちゃんも、ちゃんといるよ。それでも、無理?」
やっぱり手放し難くて、俺は女々しくもそう聞いてしまった。
なっちゃんもまた後ろ髪を引かれてるのだろう。
「私だけじゃなきゃ嫌。……100歩譲っても、私のほうが大きな存在じゃないと、耐えられない。」
「それ、けっこうな譲歩だと思うよ。」
よしよし、と、なっちゃんの頭を撫でた。
「じゃあね、もしなっちゃんが再婚して子供連れて離婚してきたとしても、その時俺がフリーなら受け入れてあげるからね。」
半分冗談、半分本気でそう言った。
「そんなの、私が嫌よ!」
またぷんぷんと怒りだしたなっちゃんがかわいくて、俺は飽きもせず眺めていた。
ひとしきり暴れて、疲れて寝てしまったなっちゃんは寝顔もかわいかった。
真澄さんとはまた違う、生命力にあふれた魅力的な美人。
……もてないわけがないよな。
悪い男に引っかかるなよ。
幸せになれよ。
翌早朝、なっちゃんは始発で京都に向かうというのに、朝食を作ってくれた。
俺も無理矢理起きて、4時半に一緒に飯を食った。
「もっとゆっくりでも間に合うんじゃないの?」
……眠いより、名残惜しくて、そう聞いてみた。
「直接、勤務学校に行くなら7時前の電車でもいいんですけど……一度、部屋に戻らないといけなくて。」
いっぱい泣きすぎて、なっちゃんのまぶたはパンパンに腫れていた。
「外、まだ暗いから、駅まで送るよ。……いや、車で京都まで送ろうか。」
未練たっぷりの俺になっちゃんはほほ笑んだ。
「いい。独りで行きたい。章さん、港なんでしょ?」
……港は、動くなって?……今はただの男なんだけどな。
お望み通り、玄関先でなっちゃんを見送る。
「お世話になりました。やだ、そんな顔しないで。章さんの笑顔が好きなのに……営業スマイルも、意地悪な笑顔も、皮肉な笑顔も……みんな、好き。笑ってくれてるだけでいいの。」
そんな風に言われても、とても笑顔になんかなれなかった。
なっちゃんは悲しそうにほほ笑んだ。
「やっぱり私じゃダメね……。」
たまらずに、ぎゅっと抱きしめた。
放したくない。
行かせたくない。
「このまま、時間が止まればいいのに。」
自分の口から出た言葉に驚いた。
それは、いつも真澄さんにだけ抱いていた特別な感情のはずだった。
……俺にとって、最上級の愛の表現かもしれない……
俺は……なっちゃんを……?
呆然としてる俺を置き去りにして、なっちゃんは去って行った。
軽やかに、コートの裾を翻して。
……とても鮮やかな出航だった。