カフェ・ブレイク
ガチャッと音が鳴り、真横のロッカーの戸が内側から開いた。
「正解。」

なぜかロッカーから竹原くんが現れた。

「こんなとこで、何してるの?」
さすがに驚いたわ。

「何って、夏子さんを待っててんけど。カウンセリングルームに入るって聞いて。俺が1番になろうと思って。」

……いったい誰から聞いたんだろう。
まだ生徒に告知してないのに。

「でも、何でロッカーにいたの?」
「いや、さっきまで普通にソファに寝転がって待っててんけど、吉永たっくんが一緒やったから隠れてん。」

たっくん?
ソファ?

……いやいやいや!

「この部屋、鍵がかかってたけど……どうやって中に?」

竹原くんは皮肉っぽく笑いながらソファに座った。
「さっきから質問ばっかり。話聞いてくれるとこちゃうん?ここ。」

「君がホントに悩みを抱えてるなら、いくらでもお話、聞きますけどね。……鍵、厳重管理されてるはずなんだけど?」

竹原くんは、ソファの肘掛けに体重をかけてしなだれかかった。
……ただでさえ整った顔をしてるのに、さらにフェロモンが出た気がする。
「厳重管理される前に作られた合い鍵があるねん。これ以上は内緒。」

「内緒って……」
何なの、この子。
「そんなものがあるんじゃ不用心ね。……わかりました。鍵を替えます。」
あえて威厳を以て、私はそう宣言した。

すると竹原くんは、低く笑った。
「大丈夫やって。今は俺しか持ってへんから。誰も、夏子さんに危害を加えへん。安心していいから。」
妙な迫力と説得力があった。

この子、いったいどういう……。
相手は中学1年生なのに、ちょっとビビってしまった。

竹原くんには私の動揺が伝わったのだろうか。
彼は表情をゆるめた。

「うん。夏子さん、美人に戻ったなぁ。よかった。独りで泣いてへんか夕べは心配やったわ。」
……優しい言葉に心がこもっていた。
子供のくせに……沁みること言ってくれるじゃないの。

返事に困ってると、竹原くんの表情がまた変わった。
クッと思い出し笑いをして、皮肉っぽく言った。
「さっきぃの吉永たっくん、笑ろたわ。でもあれ、冗談じゃなくて、夏子さんに気ぃあるで。」

「吉永先生とお呼びなさい。失礼ですよ。」
そう言いながらも、竹原くんの指摘に共感していた。

武骨というか、デリカシーのない言葉と態度だったけど、吉永先生はセクハラでも冗談でもなく、私にイイ印象を抱いたのだろう。

昨日の目を腫らした私ではなく、今日の私に一目惚れ、か。
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