カフェ・ブレイク
小門がコーヒーを飲み終える頃、携帯電話が震えた。
画面に点灯している名前は、伊織くん。
「……また、何かおねだりやろか。」
苦笑しながら小門は電話に出た。
小門と玲子(れいこ)は、伊織くんを甘やかし過ぎるきらいがある……と、常々俺は苦言を呈していたのだが……この時もまたたわいないワガママだろうと肩をすくめた。
しかし、電話を耳に宛てたまま、小門は目を見開いて固まってしまった。
顔色が、一瞬で血の気を失った。
「小門?」
電話は切れたようなのに、いつまでも何の反応も見せない小門に声をかける。
「伊織が……」
そのまま小門は、立ち上がろうとして、うまく力が入らなかったらしく、床に尻餅をついてしまった。
「小門!?大丈夫か!?」
慌てて厨房から飛び出して、小門の腕を持ち、引っぱって立たせようとした。
しかし小門は、俺の手を払いのけて、両手でバンッ!と、床を叩いた。
「天罰かよ!」
驚いたけれど、もう一度小門を立ち上がらそうと引っ張った。
天罰って……
「まさか、伊織くん?何やて?」
小門は、俺の手をグッと力を入れて握りしめ、むせび泣いた。
「事故で、死んだって。即死だって。……家の前で!玲子の目の前でっ!」
なんだ?それ。
……何の罰だってゆーんだよ。
伊織くんには、何の罪もないだろう?
いったい、どういうことだ?
何で、伊織くんが死ななきゃいけないんだよ!
急いで店を閉めると、放心状態の小門を引っ張って、一緒に店を出た。
夕方のこんな時間、タクシーより電車のほうが早いだろう。
小門の別宅は西宮の中でも、比較的高級住宅街の多い駅近くにあった。
電車の中から、玲子にメールするけれど、返事もない。
自宅に行けばいいのか、病院にいるのか、警察なのか……
「救急病院だそうだ。」
やっと小門が口を開き、自らタクシー乗り場に走った。
病院は病院でも、遺体安置室に伊織(いおり)くんの小さな身体は横たわっていた。
顔も体も、半分以上を白い包帯で覆い隠され……事故の凄惨さを否が応でも想像させられた。
「あら、久しぶりね、章(あきら)。何しに来たの?……いい気味だとでも、笑いに来たの?」
部屋の隅っこに座ったまま、玲子が俺にそう言った。
「玲子……」
相変わらずと言うべきか、何と言うか……
「古城はわざわざ俺を連れてきてくれたんや。こんな時に、噛みつかんと。……伊織は……苦しんだのか?」
小門は、伊織くんの青黒い頬に触れた。
「自分が死んだことも気づいてないわよ。一瞬だったもの。私が止めるのも聞かんと、走り出して……走ってきたトラックに……」
玲子はそれ以上続けられなかった。
ポロポロと涙をこぼして、嗚咽した。
小門が玲子のそばへと歩み寄り、玲子を抱きしめる。
玲子は声にならないかすれた悲鳴をあげて泣きじゃくった。
画面に点灯している名前は、伊織くん。
「……また、何かおねだりやろか。」
苦笑しながら小門は電話に出た。
小門と玲子(れいこ)は、伊織くんを甘やかし過ぎるきらいがある……と、常々俺は苦言を呈していたのだが……この時もまたたわいないワガママだろうと肩をすくめた。
しかし、電話を耳に宛てたまま、小門は目を見開いて固まってしまった。
顔色が、一瞬で血の気を失った。
「小門?」
電話は切れたようなのに、いつまでも何の反応も見せない小門に声をかける。
「伊織が……」
そのまま小門は、立ち上がろうとして、うまく力が入らなかったらしく、床に尻餅をついてしまった。
「小門!?大丈夫か!?」
慌てて厨房から飛び出して、小門の腕を持ち、引っぱって立たせようとした。
しかし小門は、俺の手を払いのけて、両手でバンッ!と、床を叩いた。
「天罰かよ!」
驚いたけれど、もう一度小門を立ち上がらそうと引っ張った。
天罰って……
「まさか、伊織くん?何やて?」
小門は、俺の手をグッと力を入れて握りしめ、むせび泣いた。
「事故で、死んだって。即死だって。……家の前で!玲子の目の前でっ!」
なんだ?それ。
……何の罰だってゆーんだよ。
伊織くんには、何の罪もないだろう?
いったい、どういうことだ?
何で、伊織くんが死ななきゃいけないんだよ!
急いで店を閉めると、放心状態の小門を引っ張って、一緒に店を出た。
夕方のこんな時間、タクシーより電車のほうが早いだろう。
小門の別宅は西宮の中でも、比較的高級住宅街の多い駅近くにあった。
電車の中から、玲子にメールするけれど、返事もない。
自宅に行けばいいのか、病院にいるのか、警察なのか……
「救急病院だそうだ。」
やっと小門が口を開き、自らタクシー乗り場に走った。
病院は病院でも、遺体安置室に伊織(いおり)くんの小さな身体は横たわっていた。
顔も体も、半分以上を白い包帯で覆い隠され……事故の凄惨さを否が応でも想像させられた。
「あら、久しぶりね、章(あきら)。何しに来たの?……いい気味だとでも、笑いに来たの?」
部屋の隅っこに座ったまま、玲子が俺にそう言った。
「玲子……」
相変わらずと言うべきか、何と言うか……
「古城はわざわざ俺を連れてきてくれたんや。こんな時に、噛みつかんと。……伊織は……苦しんだのか?」
小門は、伊織くんの青黒い頬に触れた。
「自分が死んだことも気づいてないわよ。一瞬だったもの。私が止めるのも聞かんと、走り出して……走ってきたトラックに……」
玲子はそれ以上続けられなかった。
ポロポロと涙をこぼして、嗚咽した。
小門が玲子のそばへと歩み寄り、玲子を抱きしめる。
玲子は声にならないかすれた悲鳴をあげて泣きじゃくった。