カフェ・ブレイク
細い廊下の中ほどで、義人くんが勢いよく振り返った。
整った顔立ちがこわばっていた。
目に余裕がなくて必死だな……と、見とれてるうちに、義人くんの両手が私を真ん中に置いて壁をついた。
……片手なら、巷で流行の「壁ドン」なんだろうけど……両腕の中に捕らえられてのこの状況も「壁ドン」なのかしら。
勢いよく義人くんの唇が私の唇に押しつけられた。
痛くはないけど、衝撃にちょっと驚いた。
強引に舌が割り込んでくる。
いつの間にか、義人くんの手は、壁ではなく私の顔と肩を逃がさないように押さえつけていた。
……長い長いキスだった。
やっと唇を放してもらえても、私はそのまま動けなかった。
唾液で光る義人くんの唇を見て、自分の唇も濡れてるんだろうなと、恥ずかしくなった。
「ぶつかり稽古じゃないんだから……」
私の照れ隠しの憎まれ口は、いたく義人くんのプライドを傷つけたらしい。
「ごめん。練習積んで出直すわ。」
口惜しそうにそう言って、義人くんは背中を向けた。
黙って靴を履き、戸を開けて振り返った義人くんは、いつも通りの笑顔だった。
「じゃあね、夏子さん。」
ドアが閉まるのを見てから、ずるずると壁に背中を滑らせて廊下に座り込んだ。
翌日は一旦出勤し、11時から学校を抜けさせてもらった。
病院には11時半に到着した。
一応11時45分に診察の予約を入れてもらっていたのだが……実際に診察室に入れたのは12時半過ぎ。
なるべく早く学校に戻りたいのに。
傷口はしっかりふさがったらしく、ホッチキスは3つとも抜いてもらえた。
一応、ラップシートを貼られたけれど、あとは時間薬のようだ。
ホッとして診察室を出ると、待合室の椅子に要人(かなと)さんが座ってらした。
……外来の診療時間はとっくに終わっているので、人はほとんどんいなかったけれど……ついつい周囲の目を気にした。
「こんにちは。いかがですか?順調に治ってはりますか?」
「はい。おかげさまで。もう血は出ないと思います。」
そう言って、シートを貼った傷口を見せた。
要人さんはうなずいて、私に自分の横に座るよう、手招きした。
「どうぞ。」
「えーと、会計を済ませたら、早々に学校に戻りたいのですが……」
私はそう言って会計に提出する書類の入ったファイルを見せた。
「……原。」
一言、要人さんが秘書の原さんの名前を呼ぶと、どこからともなく原さんが現れて、私からうやうやしい態度で強引にファイルを奪って行ってしまった。
やっぱり怖い……原さん。
「ご一緒にランチをと思ったのですが、その時間はもうありませんか?」
「……もしかして待ってくださってたのですか。……すみません。」
時計を見ると、もう13時だ。
「いや、私が勝手にお待ちしていたのですから、お気になさらずに。では、学校までお送りします。」
さすがに何もかも拒否するのは失礼かしら。
私は従容とうなずいた。
「ありがとうございます。」
整った顔立ちがこわばっていた。
目に余裕がなくて必死だな……と、見とれてるうちに、義人くんの両手が私を真ん中に置いて壁をついた。
……片手なら、巷で流行の「壁ドン」なんだろうけど……両腕の中に捕らえられてのこの状況も「壁ドン」なのかしら。
勢いよく義人くんの唇が私の唇に押しつけられた。
痛くはないけど、衝撃にちょっと驚いた。
強引に舌が割り込んでくる。
いつの間にか、義人くんの手は、壁ではなく私の顔と肩を逃がさないように押さえつけていた。
……長い長いキスだった。
やっと唇を放してもらえても、私はそのまま動けなかった。
唾液で光る義人くんの唇を見て、自分の唇も濡れてるんだろうなと、恥ずかしくなった。
「ぶつかり稽古じゃないんだから……」
私の照れ隠しの憎まれ口は、いたく義人くんのプライドを傷つけたらしい。
「ごめん。練習積んで出直すわ。」
口惜しそうにそう言って、義人くんは背中を向けた。
黙って靴を履き、戸を開けて振り返った義人くんは、いつも通りの笑顔だった。
「じゃあね、夏子さん。」
ドアが閉まるのを見てから、ずるずると壁に背中を滑らせて廊下に座り込んだ。
翌日は一旦出勤し、11時から学校を抜けさせてもらった。
病院には11時半に到着した。
一応11時45分に診察の予約を入れてもらっていたのだが……実際に診察室に入れたのは12時半過ぎ。
なるべく早く学校に戻りたいのに。
傷口はしっかりふさがったらしく、ホッチキスは3つとも抜いてもらえた。
一応、ラップシートを貼られたけれど、あとは時間薬のようだ。
ホッとして診察室を出ると、待合室の椅子に要人(かなと)さんが座ってらした。
……外来の診療時間はとっくに終わっているので、人はほとんどんいなかったけれど……ついつい周囲の目を気にした。
「こんにちは。いかがですか?順調に治ってはりますか?」
「はい。おかげさまで。もう血は出ないと思います。」
そう言って、シートを貼った傷口を見せた。
要人さんはうなずいて、私に自分の横に座るよう、手招きした。
「どうぞ。」
「えーと、会計を済ませたら、早々に学校に戻りたいのですが……」
私はそう言って会計に提出する書類の入ったファイルを見せた。
「……原。」
一言、要人さんが秘書の原さんの名前を呼ぶと、どこからともなく原さんが現れて、私からうやうやしい態度で強引にファイルを奪って行ってしまった。
やっぱり怖い……原さん。
「ご一緒にランチをと思ったのですが、その時間はもうありませんか?」
「……もしかして待ってくださってたのですか。……すみません。」
時計を見ると、もう13時だ。
「いや、私が勝手にお待ちしていたのですから、お気になさらずに。では、学校までお送りします。」
さすがに何もかも拒否するのは失礼かしら。
私は従容とうなずいた。
「ありがとうございます。」