カフェ・ブレイク
病院の前に停まった黒い車の後部座席に、要人さんと並んで座る。
運転手さんと原さんが前に座ってたので、広いはずの車内が何となく手狭に感じた。

「愚息は、夏子さんにご迷惑をかけていませんか。」
おもむろに要人さんが言った。

隣の要人さんを見て……義人くんとよく似た面差しと唇に、ドキッとした。
……てか、今の質問にどう返事をしろって言うの。
はいと言っても、いいえと言っても嘘のような気がする。

曖昧にうなずくにとどめると、要人さんは苦笑した。
「夕べ、いっちょまえに、私に釘を刺してきましたよ。愚息はよっぽど夏子さんが好きらしい。」

義人くん!?
何してくれてるの~~~!!

「あの、ご心配されるようなことには決してなりませんから。どうかご安心ください。」
とりあえず、教職員の自覚をもってそう言った。

要人さんは首をかしげた。
「私は何も心配してません。むしろ変な女につかまるよりずっといい。夏子さんが良識ある大人の女性で安心していますよ。」

……勘弁してください。
変な汗が噴き出してくる。
うちの息子に手を出すな!……と言わないあたりが、京都人なのだろうか。

これ以上の会話はきつい。
早く着いてほしい。
ひたすら黙ってうつむいていたけれど、隣で要人さんはむしろニヤニヤしていた。
……夕べ義人くんに釘を刺されたって言ったけど……こうして私に釘を刺すことで意趣返ししてらっしゃるのかしら。


やっと学校に到着した。
「ありがとうございました!」
深々とお辞儀をして要人さんにお礼を言った。

原さんがわざわざドアを開けてくれた。

「また、ご一緒に美味いものでも食べに行きましょう。お大事になさってください。」
会釈をしてから車を降りて、もう一度深く頭を下げた。
要人さんは笑顔でひらひらと手を振った。

原さんがドアを閉めてから、私に紙袋を2つ手渡した。
「お昼を食べ損ねたとお聞きしましたので。どうぞあとでお召し上がりください。」
……怖いけど、気が利くなあ。

「ありがとうございます。じゃあ、これが最後ということで。……こっちは?」
白いシンプルな紙袋に、ブルーの包装紙に白いリボンのかかったプレゼントのような箱が入っていた。」

「社長からのお詫びの品です。割れ物なのでお気を付けてお持ちください。では、これで。失礼いたします。」

原さんが一礼して助手席に乗ると、車はすぐに走り去った。

スモークガラスで車内の様子はほとんど見えないけれど、車が見えなくなるまで見送った。
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