カフェ・ブレイク
……本気で「練習」してるのか、私に対する当て付けなのか、単に遊んでるのか……今となってはよくわからない。

ただ、義人くんを見かけると、頭が真っ白になって、逃げ出してしまう。

要人さんの携帯が震えた。
「……失礼。無粋な電話や。」

「どうぞ、お気になさらずに。」
そう言ったけど、要人さんは無造作にスギゴケを踏んで、この箱庭を出て行った。

残された私は、遠慮なく、ボーッと桜に見とれた。
枝垂れ桜の向こうに要人さんが見える。
やっぱり似てる……義人くんに。

義人くんはこの2年で身長が伸びて、筋肉がつき、声も低くなり、男っぽさが増した。
惜しげもなく周囲に笑顔と優しさを振りまき、今や学園のアイドル状態。

……義人くんに本気で恋わずらいする女の子が保健室に来ることもある。
そんなとき、たいてい、薬剤師の和田先生が明るく前向きなアドバイスで女の子の背中を押し……義人くんはまた新たな「オトモダチ」を得ることになる。

和田先生は、義人くんなら恋愛初心者を任せても害は成さずに経験とイイ思い出を与えてくれる、と変な信頼を抱いている。

……私の心にはその都度、闇が広がる。




「やはり夏子さんには桜が似合う。」
不意に背後からそう言われて、ドキッとした。

義人くん!!

振り向くと、そこに立っていたのは、要人さん。
……やだ……私……。
涙がこみ上げてくるのをこらえようと、また桜を見上げた。

「来週末、我が家で恒例の桜の鑑賞会があるのですが、夏子さんもいらっしゃいませんか?」
要人さんの招きを、私は躊躇うことなく断った。
……が、気がつくといつものように、要人さんに言いくるめられて出席することになっていた。

この流されやすい性格が、本気でうらめしいわ。

「園遊会形式なので、雨が降らないように祈っててください。」
「……雨天中止ですか?」
逆さてるてる坊主でも作って雨乞いしようかしら……

「いえ。雨天の場合は、屋敷内のホールですね。桜が見えない、ただのパーティーになってしまうけど。」
それは確かに意味がないわ。
「……晴れるといいですね。」

園遊会、か。
……何、着て行こう?




高校の入学式で、義人(よしと)くんは新入生代表の挨拶をした。
内部生はもちろんだが、外部から受験を経て入学してきた新入生や保護者席が一斉にに色めき立った。

「すっかり『学園の顔』やね。」
隣で薬剤師の和田先生がほほ笑んでいた。

「……不思議ですよね。彼よりカッコイイ子もいるのに……」
そうつぶやきながらも、壇上の義人くんから目が離せない。

代わりに和田先生がぐるりと座っている生徒を見渡した。
「いたいた。後ろのほうに、ほぼ金髪の美少女。……わかる?」
「金髪……」
義人くんが壇上から降りて席に戻ったのを確認してから、視線を移す……いた。

同じ列の後ろに白い肌の、ちょっと日本離れした綺麗な子がいた。
< 179 / 282 >

この作品をシェア

pagetop