カフェ・ブレイク
2日後、伊織くんの葬儀は家族葬でひっそりと行われた。
俺も参列したけれど、小門も玲子も、親戚すら呼ばなかったようだ。
もちろん、真澄さんたちも姿を見せなかった。
会社からの花と弔電にすら、玲子は八つ当たりしていた。
玲子は、途中から少し錯乱していたように見えた。
小門はずっと玲子の肩を抱き、ただ涙を流していた。
……頼之くんのような利発さはなかったが、両親からの愛を一身に受けた伊織くんは、幸せだったろうけれどもあまりにも短い人生を終えた。
玲子の時間もまた、そこで止まってしまったようなものだった。
小門は会社も休んで玲子のそばについていた。
年が明けてすぐに、入院していた真澄さんの父親、つまり、小門の舅で会社の社長が、肺炎で急死した。
小門は否が応でも引っ張り出されることになった。
……玲子のために辞職するつもりになっていたようだったが、状況がそれを許さなかった。
葬儀の席で、久しぶりに……たぶん5年ぶりに小門は真澄さんと同席した。
頼之くんとは、本当に初対面。
夫婦間に会話は一切なかったらしいが、頼之くんは小門を目で追っていた。
かわいそうに。
喪主の挨拶でも、出棺の挨拶でも、半歩後ろに並んだ真澄さんと頼之くんが小門を見つめている瞳がいじらしかった。
あるべきはずの家族の形がそこに存在しているのに……。
俺でさえやきもきしているのだから、親類や会社の重役連中は、そりゃあもうたまらない気持ちだったのだろう。
その夜、喪服のまま小門が、店ではなく、うちを訪ねて来た。
「……帰らなくていいのか?玲子、待ってるだろ。」
玲子がどんなに泣いて嫌がっても、小門は会社を見捨てられない。
今日の葬儀でそう確信したが、玲子は果たして受け入れられるのか。
「入院した。」
入院?
「とうとう気が触れたか?」
思わずそう聞いてしまったが、小門は肩をすくめただけで俺の失言を聞き流した。
「……一昨日の夜、オヤジさんの訃報を聞いてすぐ小門家に行こうとしたのが気に入らなかったらしくて、自殺未遂したんや。……いや、心中未遂か。」
そう言って、小門は袖を捲って見せた。
右腕に包帯が巻かれていた。
「けっこうザックリいかれてしもたわ。」
病院から警察に通報されたが、玲子が全く事情聴取に応じられない興奮状態だったため、心神喪失状態と判断されたらしい。
「……壮絶やな。」
小門は無言で袖を下ろした。
俺も参列したけれど、小門も玲子も、親戚すら呼ばなかったようだ。
もちろん、真澄さんたちも姿を見せなかった。
会社からの花と弔電にすら、玲子は八つ当たりしていた。
玲子は、途中から少し錯乱していたように見えた。
小門はずっと玲子の肩を抱き、ただ涙を流していた。
……頼之くんのような利発さはなかったが、両親からの愛を一身に受けた伊織くんは、幸せだったろうけれどもあまりにも短い人生を終えた。
玲子の時間もまた、そこで止まってしまったようなものだった。
小門は会社も休んで玲子のそばについていた。
年が明けてすぐに、入院していた真澄さんの父親、つまり、小門の舅で会社の社長が、肺炎で急死した。
小門は否が応でも引っ張り出されることになった。
……玲子のために辞職するつもりになっていたようだったが、状況がそれを許さなかった。
葬儀の席で、久しぶりに……たぶん5年ぶりに小門は真澄さんと同席した。
頼之くんとは、本当に初対面。
夫婦間に会話は一切なかったらしいが、頼之くんは小門を目で追っていた。
かわいそうに。
喪主の挨拶でも、出棺の挨拶でも、半歩後ろに並んだ真澄さんと頼之くんが小門を見つめている瞳がいじらしかった。
あるべきはずの家族の形がそこに存在しているのに……。
俺でさえやきもきしているのだから、親類や会社の重役連中は、そりゃあもうたまらない気持ちだったのだろう。
その夜、喪服のまま小門が、店ではなく、うちを訪ねて来た。
「……帰らなくていいのか?玲子、待ってるだろ。」
玲子がどんなに泣いて嫌がっても、小門は会社を見捨てられない。
今日の葬儀でそう確信したが、玲子は果たして受け入れられるのか。
「入院した。」
入院?
「とうとう気が触れたか?」
思わずそう聞いてしまったが、小門は肩をすくめただけで俺の失言を聞き流した。
「……一昨日の夜、オヤジさんの訃報を聞いてすぐ小門家に行こうとしたのが気に入らなかったらしくて、自殺未遂したんや。……いや、心中未遂か。」
そう言って、小門は袖を捲って見せた。
右腕に包帯が巻かれていた。
「けっこうザックリいかれてしもたわ。」
病院から警察に通報されたが、玲子が全く事情聴取に応じられない興奮状態だったため、心神喪失状態と判断されたらしい。
「……壮絶やな。」
小門は無言で袖を下ろした。