カフェ・ブレイク
「綺麗な女の子ですね。」
ため息が出るほど美しいお人形みたいな子だったけれど……この子も義人くんに惹かれるのかしら、と、胸にもやもやが広がった。
「男子やって。」
え!?
まだ式典の途中なので、声は必死で押さえて、和田先生を見た。
ふふっと和田先生が小さく笑った。
「あのクラス、何だか系統の違うビジュアル系が揃ったわね。」
「……ほんとだ。あの髪の長い子も一緒なんですね。」
中ほどに、中性的な美貌の男子も見えた。
「うーん、目の保養。あのクラスの女子、ラッキーね。」
「……ラッキー……なんでしょうか……」
争奪戦の激しさを想像して、私はむしろ同情するけどな。
高校の入学式に続いて、中学校の入学式に参列した。
初々しいというよりはかわいらしい新中学生に目尻を下げて見ていたけれど……この中に要人(かなと)さんの娘さんが2人いるのか、と思うと、複雑な気分になった。
お昼前に和田先生はいそいそと帰り支度を始めた。
「さて。じゃあ私はお先に失礼しますね。あと、よろしくお願いしまーす。」
「いってらっしゃい。お疲れ様でした。」
おそらく校長とデートなのだろう……いつもより濃いめに化粧を直し、弾む足取りがかわいかった。
いいなあ。
満開の桜を眺めながらボーッとしてると、保健室のドアが開いた。
「失礼しまーす。」
え?この声?
驚いて顔を上げると、義人くんだった。
「……どうしたの?体調、悪い?」
立ち上がって、少し近づく。
「いや。」
義人くんはそう言いながら、後ろ手でドアを閉めた……ん?鍵、かけてない?
「……ココ、保健室よ?何か、用?」
足を止めて、そう聞いた。
「……ほな、身長、測りに来ました~。」
そう言って、義人くんはすぐ横に置いてあった身長測定器に靴を脱いで乗った。
は?
「いくつ?」
まっすぐ向けられた瞳に、鼓動が早くなる。
「えーと……171.8cm。」
身長測定器の横に立ち、背伸びをして目盛りを読む。
「まだそんなもんか……ま、いいわ。」
そう言うなり、義人くんはクルッと身を翻し、私を両手に捕らえた。
嘘っ!?
「ちょ……ここ、学校……やめて……」
大きい声を出すわけにもいかず、小声でそうお願いした。
「嫌やったら、逃げたら?大声出して、誰か呼んでもええで?」
頭の上で義人くんがそう言った。
……ホントに、背が高くなったんだなあ、と改めて実感した。
頬に押しつけられた胸も、ずいぶんとたくましく感じた。
お互いに微動だにせず、時が流れる……。
窓の外で鳥が鳴いている。
風にそよいで桜の花びらが散る。
ひらひらと蝶々が飛んでる。
鼓動が聞こえる。
私の鼓動だけじゃない。
義人くんの鼓動も……速い。
……2つの鼓動が少しずつ溶け合って、同じリズムを刻み始めた。
ああ……ダメだ。
こんなたわいもないことが、うれしい。
涙が出てきそう。
ため息が出るほど美しいお人形みたいな子だったけれど……この子も義人くんに惹かれるのかしら、と、胸にもやもやが広がった。
「男子やって。」
え!?
まだ式典の途中なので、声は必死で押さえて、和田先生を見た。
ふふっと和田先生が小さく笑った。
「あのクラス、何だか系統の違うビジュアル系が揃ったわね。」
「……ほんとだ。あの髪の長い子も一緒なんですね。」
中ほどに、中性的な美貌の男子も見えた。
「うーん、目の保養。あのクラスの女子、ラッキーね。」
「……ラッキー……なんでしょうか……」
争奪戦の激しさを想像して、私はむしろ同情するけどな。
高校の入学式に続いて、中学校の入学式に参列した。
初々しいというよりはかわいらしい新中学生に目尻を下げて見ていたけれど……この中に要人(かなと)さんの娘さんが2人いるのか、と思うと、複雑な気分になった。
お昼前に和田先生はいそいそと帰り支度を始めた。
「さて。じゃあ私はお先に失礼しますね。あと、よろしくお願いしまーす。」
「いってらっしゃい。お疲れ様でした。」
おそらく校長とデートなのだろう……いつもより濃いめに化粧を直し、弾む足取りがかわいかった。
いいなあ。
満開の桜を眺めながらボーッとしてると、保健室のドアが開いた。
「失礼しまーす。」
え?この声?
驚いて顔を上げると、義人くんだった。
「……どうしたの?体調、悪い?」
立ち上がって、少し近づく。
「いや。」
義人くんはそう言いながら、後ろ手でドアを閉めた……ん?鍵、かけてない?
「……ココ、保健室よ?何か、用?」
足を止めて、そう聞いた。
「……ほな、身長、測りに来ました~。」
そう言って、義人くんはすぐ横に置いてあった身長測定器に靴を脱いで乗った。
は?
「いくつ?」
まっすぐ向けられた瞳に、鼓動が早くなる。
「えーと……171.8cm。」
身長測定器の横に立ち、背伸びをして目盛りを読む。
「まだそんなもんか……ま、いいわ。」
そう言うなり、義人くんはクルッと身を翻し、私を両手に捕らえた。
嘘っ!?
「ちょ……ここ、学校……やめて……」
大きい声を出すわけにもいかず、小声でそうお願いした。
「嫌やったら、逃げたら?大声出して、誰か呼んでもええで?」
頭の上で義人くんがそう言った。
……ホントに、背が高くなったんだなあ、と改めて実感した。
頬に押しつけられた胸も、ずいぶんとたくましく感じた。
お互いに微動だにせず、時が流れる……。
窓の外で鳥が鳴いている。
風にそよいで桜の花びらが散る。
ひらひらと蝶々が飛んでる。
鼓動が聞こえる。
私の鼓動だけじゃない。
義人くんの鼓動も……速い。
……2つの鼓動が少しずつ溶け合って、同じリズムを刻み始めた。
ああ……ダメだ。
こんなたわいもないことが、うれしい。
涙が出てきそう。