カフェ・ブレイク
「うれしかった。」

義人くんは、まじまじと私を見た。
「……どうしよう。押し倒したい。」

「それはダメ。ココは神聖な学園の保健室です。」
そう言って立ち上がって、義人くんを見下ろした。

「2年かかって私も否が応でも自覚したわ。君がそばに来てくれなくて淋しかった。恋しいと思ってたわ。」

義人くんは目をぱちくりした。
「マジで?からかってへん?」

「……馬鹿ね。」
私は再び入口のドアを開けた。
「冷静になってから、出直して来なさい。」

義人くんは真面目な顔で立ち上がった。
「わかった。お邪魔しました。今日は帰るわ。……全部、整理してくる。」

は!?

慌てて私はドアを閉めた。
「ね!また何か勘違いしてる!」

「してへんと思うけど。」
義人くんは照れくさそうな顔をした。
「他の女の子じゃあかんねん。ハッキリわかった。俺、夏子さんと結婚したい。」

「無理!それは無理!君、まだそんな年齢じゃないでしょ?それに12も年上よ?私はバツイチよ!?絶対ダメ!」

慌ててそう否定すると、義人くんはムッとした顔をした。
「関係ないわ。そんなもん。俺が夏子さんしかいらん、って思ってるねん。」

「付き合う前からそんなこと決めつけるもんじゃないわよ。もっと広い視野を持って。他の女の子もちゃんと見て。私は……君が好きだけど、君との将来なんて考えられないから。」

きっぱりそう言うと、義人くんは傷ついた顔をした。
「そんな顔してもダメ。君の輝かしい未来に私はふさわしくない、って言ってるの。」

「……何やねん、それ。俺に、遊びって割り切れってこと?……汚い親父みたいなこと言うなや。不倫で感覚狂ってるんちゃうか!」
今度は怒り出した義人くん。

……ああ、もう!
不倫って、誰のことよ!
私は潔白だっ!

「やっぱり頭、冷やしてらっしゃい。」
私はそう言いながらドアを開けると、義人くんの背を押した。

「夏子さんもな!」
売り言葉に買い言葉?

義人くんは、ぷんすか怒って出て行った。




翌日、いきなり保健室は繁盛した。
泣き腫らし、目の下にくまのできた女生徒が何人も来る。

……原因は、義人くん……らしい。
みんなそれ以上は口をつぐんで言わないけれど、ベッドの中でシクシクと泣いてる子もいた。

放課後、カウンセリングルームを訪れた女子からは、もう少し詳しい話が聞けた。
義人くんは、告白してきたどの子に対しても、これまでは「特定の彼女は作らない主義だけど、複数のうちの1人でよければ付き合ってもいい」と返事してきたらしい。
正確な数はわからないけれど、かなりの数の対象がいたようだ。

ところが、夕べ、彼女達1人1人に「大事にしたい女性ができたから、もう付き合えない」と電話してきたらしい。

……あの、馬鹿!

盛大に舌打ちしたい気持ちをぐっとこらえて、カウンセリングに徹した。
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