カフェ・ブレイク
次の日もその次の日も、新たな女生徒がつらそうな顔でやってきた。
さすがにこれはおかしい、と、薬剤師の和田先生を経由して校長以下教師の知るところとなり、職員会議にも取り上げられたらしい。

……しかし、不特定多数と付き合ってた時はお咎めなしで、1人に絞ると問題視されるというのは、倫理的に不条理な話だ。

良くも悪くも、彼は「学園のアイドル」なのだろう。 
私に、独占できるわけない。


数日後、事態は思わぬ方向へと進んだ。
義人くんの本命の彼女探しが、まるで魔女狩りのように始まったのだ。

同時進行で、義人くんにふられた子達が組織化していく。
……アイドルのファンクラブか親衛隊のように、抜け駆け禁止を掲げて義人くんにまとわりつき始めた。
校内のみならず、登下校まで取り囲んでいるらしい。

そのパワーを他に向ければいいのに……とも思うけど、うちひしがれていた女の子達がまた元気になったのは、まあ、よかったのではないだろうか。

「竿姉妹、なのよね。あの子たち。」
ボソッとそう言った和田先生の言葉が胸に突き刺さった。


週末の日曜日、要人(かなと)さんのご招待で、義人くんのお家を訪ねた。
……電話で服装についてお伺いしたところ、
「平服でお越しください……と、招待状には書いてありますが、男性はほぼスーツか着物、女性はほとんどが着物ですね。洋服でしたら、フォーマル系のものが悪目立ちしなくていいと思います。」
と、教えていただいた。

全然平服じゃないですよ、それ。
日本人らしいというか、京都人らしいというか……

せっかくなので、朝から最寄りの美容院で髪と着付けをしてもらって、着物で参戦することにした。
……最初は桜の小紋を選んだのだけど、美容院で「桜の園遊会に行く」と言うと、他の着物に変更するように言われた。

「ほんまもんの桜には適わへんのやから、無粋ですえ。帯だけとか、小物に桜をあしらったんやったらええけど、着物はやめといたほうがいいわ。他のん、ないの?」

結婚前にいっぱい作ってもらったので、あることはある。
ほとんどしつけ糸のついたまんまだけど。

正直にそう伝えると、急遽、美容師さんがうちに来て見てくれた。
「ひや~~~。宝の持ち腐れっていうのはこのことやな。もったいない!せっかく誂えてもろたんやったら、もっと着はったらええわ。」

そう言いながら彼女が選んだのは、ブルーグレーの付下げに、プラチナ箔の袋帯。
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