カフェ・ブレイク
「ちょっと仰々しくありませんか?」
「着物は、迷った時は格上のものを選ぶもんです。相手さんは、『うちを大事に考えてくれてる』って思わはるし。」
「……そういうものなんですかぁ。」

ふと、桜の描かれた帯を見つけた。
「では、この帯はいかがですか?」

そう尋ねてみると、美容師さんは顔をしかめて手を振った。
「あかんあかん。帯は、手描きより織りのほうが格上です。これは、小紋とか紬に使いよし。」

……着物、難しい……。
私は完全に諦めて、美容師さんに全てお任せした。

着物で運転は大変かしら?……と、ちょっと悩んだけれど、歩き慣れない草履よりマシだろうと判断して、愛車で出発。

市中には満開の桜が美しく、必然的に観光客で道路は混雑していた。
早めに出てきてよかった。

でも、一番混雑していたのは、義人くんの自宅付近。
そう言えば、観光地って言ってたっけ。

これは……ひどい。
たいして広くない道に、観光バスが並び、観光客が車道にまで溢れていた。

結局、個人宅にしては広い広い駐車場に到着できたのは、受付開始時間ちょうどだった。

……てか、受付って。

「大瀬戸さま。」
並んで記帳していると、要人(かなと)さんの秘書の原さんに声をかけられた。

「こんにちは。すごいヒトとお屋敷ですね。何人ぐらい招いてらっしゃるんですか?」
「毎年300人ほどです。」
「……そうでしたか。」

そりゃ、私独りぐらい紛れ込んでも全然問題ないわ。

原さんは私が記帳を終えるのを待って、耳打ちした。
「門を入られまして、右手に社長、左手に義人さんがいらっしゃいます。」
……どっちに行くか試されてるのだろうか。

「まずは要人さんにご挨拶、ですよね?……あの、奥様にもご挨拶しても差し支えありませんか?2年以上前にお食事を差し入れていただいたことがあるんですけど。」

原さんは、慇懃無礼に頭を下げた……肯定したらしい。
「では、ごゆっくりお楽しみください。」

原さんは別の偉そうなおじさんのもとへと駆けつけて挨拶をしていた。
会社の行事、なのかな、これ。

門を入ると、広い広いお庭が広がっていた。

丘?
庭園?
……個人のお家のレベルじゃない。
嵐山を借景に、よく手入れされた回遊式の庭園。
今回解放されてる桜の園だけじゃなく、薔薇園や、梅園、紅葉林もあるらしい。

たくさんのお客さまに囲まれて談笑している要人さんには当分近づけそうにない。
先に義人くんを探すべき?……と、キョロキョロしていると、目の前にシャンパングラスを突き出された。
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