カフェ・ブレイク
「どうぞ。」
「……車で来てるから飲めないのよ。」

そう言いながら振り向くと、義人くんがまぶしそうな顔をしていた。

「めっちゃ綺麗。着物も似合うんや。」
「ありがと。義人くんも、カッコイイわよ。……さすが、ファンクラブが結成されるだけのことはあるわね。」
白いスーツは、この大人数の中でも一際目立っていた。

「……あれなあ……まさか結託されると思わんかったわ。」
そう言って、義人くんは手に持ったシャンパンをクイッとあおった。

「こら!未成年!」
慌ててシャンパングラスを取り上げる。

「これぐらい大丈夫やって。」
ぶつぶつ言う義人くんがかわいい。

「……君が彼女たちを考えなしにふったせいで、保健室もカウンセリングルームも大賑わい。君にどう文句を言ってやろうかって思ってたら……強いわね、女の子って。犯人探しに躍起になってる。」
肩をすくめてそう言うと、義人くんは顔を曇らせた。

「ごめん。こんなはずじゃなかったんやけど。夏子さんってバレたら、まずい?」
「まずいなんてもんじゃないわよ。闇討ちされちゃう。……絶対に、学校では近づかないでね。」

私がそう言うと、義人くんの目がキラッと光った。
「……わかった。夜に行くよ。」
そんなつもりで言ったわけじゃなかったんだけど……拒絶できなかった。


話をそらそうと、周囲に視線を巡らした。
「お母様にもご挨拶したいんだけど……」
義人くんは、あー……と、低い声を出した。
「やめといたら?」

「どうして?」
要領を得ない義人くんの様子に首をかしげる。
義人くんはたっぷり躊躇った後、私の手を取って、立ち入り禁止の車止めの脇から丘の奥へと連れてってくれた。

「あそこ、見える?」
「……うん。日本家屋に……女性が何人か……」

「あれね、父親が囲ってる女が、本妻である母に挨拶に来てるの。外聞悪いだろ。」
お妾さん……達……ってこと?
要人さん……すごいヒト……てか、奥様、大変。

「夏子さん、美人やから、どう取り繕ってもバレるよ。やめとき。」

……バレる?

「私、囲われてないけど?」
ちょっとイラッとしてそう反論した。
やっぱり義人くん、誤解してる。

義人くんは、再び私の手を取った。
「ごめん。……戻ろう。例の、イチゴのスープのシェフも来てるよ。」

どうでもいいわよ、そんなの。
誤解されたままは、嫌。

「義人くん、私は……」
「もういいから!」

珍しく、義人くんが声を荒げた。

それ以上何も言えない。

……誤解なのに。
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