カフェ・ブレイク
完全に誤解して、聞く耳を持たなくなってる義人(よしと)くんは、原さんに呼ばれて、お仕事関係のかたにご挨拶に行ってしまった。

入れ違いに、要人(かなと)さんがやってきた。
「こんにちは。夏子さん。よくお似合いですね。どこの女優さんかと思いましたよ。愚息とはもう会いましたか。」

出た!諸悪の根源!
「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。……義人くん、思いっきり誤解してますけど。一体彼に何を言ってるんですか?」
ついつい、笑顔が引きつってしまう。

「何って、夏子さんが如何に優しくて、如何に美しくて、如何に家庭的か……あなたを直接知るのは愚息だけなので、共感を得ようと話題にするのですが、愚息はイロイロ早とちりしてるようですね。」

茶目っ気たっぷりに要人さんが言った。

「確信犯でしょ!……あまり、イジメないでください。」
何考えてるんだろう、要人さん。
邪魔してるようにも、けしかけてるようにも感じる。

「失礼しました。……ああ、ご紹介しますよ。家内です。」

え!?

驚いて見ると、かわいらしい雰囲気の女性が要人さんに近づいてきていた。
うっすらと紫がかった白い着物に、柔らかいシャンパンゴールドの帯が、とても上品に映えていた。
……この似非紳士にはもったいないぐらい、温かい雰囲気だ。

「あら、きれいなお嬢さん。どなた?」
ニコニコと微笑んで会釈した奥様に慌てて頭を下げた。

「学校の保健室の先生ですよ。本社の隣のマンションにお住まいでね、以前、私が怪我をさせてしまって。」
要人さんの説明に、奥様は眉をひそめた。
「そうでしたか!主人が大変失礼いたしました。」

「いえいえ。そんな。……あの、以前、私、義人くんからイチゴのスープをいただいたことがあるんです。その節は、ごちそうさまでした。やっとお礼を言うことができました。」

「あら!イチゴのスープ!」
奥様は、手をたたいて笑った。
「あれは、ひどかったわね。覚えてるわ。そう、あなたも被害者なのね。」
笑いながらそう言ってから、奥様が建物のほうを指差した。

「あちらにシェフがお料理を準備してくださってるので、召し上がってください。名誉挽回のチャンスをあげてくださいな。」

奥様の優しい声と笑顔につられて、私まで笑顔になる。

要人さんが「天使」と表現していた意味がよくわかったわ。
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